【光のカケラ】あの名作の姉妹シリーズ。運命が交錯する野良猫ハードボイルド完結編【三日月島のテール】【小学校高学年以上】

2024年4月11日

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光のカケラ 三日月島のテール 5  竹下文子/作 鈴木まもる/絵 偕成社

おれの名はテール。海の宅配便「ドルフィン・エクスプレス」の配達員だ。もうすぐジュエルの祭り。贈り物が増加しててんてこまいだ。そんなとき、預かった荷物のせいで怪しい男と地に追われることになり……あの「黒ねこサンゴロウ」の姉妹版が新装版で。

この本のイメージ 野良猫☆☆☆☆☆ ハードボイルド☆☆☆☆☆ サスペンス☆☆☆☆☆

光のカケラ 三日月島のテール 5  竹下文子/作 鈴木まもる/絵 偕成社

<竹下文子>
竹下 文子(たけした ふみこ、1957年2月18日 ~ )は 日本の児童文学作家。夫は画家の鈴木まもる。福岡県生まれ、東京学芸大学教育学部卒業。大学在学中より執筆を行う。1978年「月売りの話」で日本童話会賞受賞。1979年『星とトランペット』で第17回野間児童文芸推奨作品賞受賞。1985年『むぎわらぼうし』で絵本にっぽん賞受賞。1994年『黒ねこサンゴロウ旅のはじまり』『黒ねこサンゴロウキララの海へ』で路傍の石幼少年文学賞受賞。2009年『ひらけ!なんきんまめ』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。2020年『なまえのないねこ』で日本絵本賞、講談社絵本賞受賞。(wikipediaより)

<鈴木まもる>
1952年、東京都に生まれ。「黒ねこサンゴロウ」シリーズで赤い鳥さしえ賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。

 伝説の児童小説「黒ねこサンゴロウ」の姉妹シリーズ「三日月島のテール」シリーズ。初版は2007年岩崎書店から。第1巻「ドルフィン・エクスプレス」が出版されてから20年経って2022年、偕成社から新装版が出版されました。表紙は鈴木まもる先生描き下ろし。挿絵も新しいカットが追加されています。

 お話は一話完結で、どの巻から読んでも大丈夫なつくりになっていますが、第1巻「ドルフィン・エクスプレス」から順番にお読みになったほうがわかりやすいでしょう。

 「ドルフィン・エクスプレス」のレビューはこちら

 また、このシリーズだけでも充分面白くて楽しめるのですが、「黒ねこサンゴロウ」と同じ世界観ですのでより深く理解するためには「黒ねこサンゴロウ」シリーズと「黒ねこサンゴロウ旅のつづき」シリーズを順番にお読みになったあとにお読みになることをおすすめします。

 「黒ねこサンゴロウ」のレビューはこちら

今回のストーリーは……

 もうすぐ女神ジュエルのお祭り。
 贈り物が増えて、繁忙期に入る「ドルフィン・エクスプレス」。
 テールはとある「三重丸」(届け先の人間に直接手渡し)を配達中に怪しい男たちに追われてしまいます。

 逃亡中に助けてくれたのは、なんとさすらいのあの黒猫。
 この荷物はいったい何なのか。そして、テールの運命は?

 ……と、いうのがあらすじ。

 この物語は「ねこ族」と言う二足歩行している猫が服を着て人間の言葉をしゃべり生活している世界でのファンタジー。「黒ねこサンゴロウ」シリーズと同じ世界観で、今回の舞台は三日月島です。

 このシリーズのコンセプトは「ねこ+海+ハードボイルド」です。

 大人の世界がちらりと見えてくる小学校高学年。渋くてかっこいい大人の世界がハードボイルド。
 でもねえ、大人になってみると渋い大人なんていないことに気づきます。みんなどこか子どもで、もがきながら生きているから。
 それがかっこいいと思えるようになるのも大人なのですが……

 若い頃は純粋な気持ちで「渋い大人の世界」を楽しめます。そういう意味では素敵なハードボイルド入門編。

 テールは海の宅配便「ドルフィン・エクスプレス」の配達員。
 孤児院育ちで親を知りません。
 ずっとまとわりついている焦燥感を配達ボートを疾らせることで紛らわせています。

 そんなテールが偶然事件に巻き込まれてしまい、再び「あの黒猫」と出会うのが今回のお話。

 幼馴染のジョナ、島から出てきたクルミ先生らしき女医さん、不思議な力を持つマーレなど、今回の登場人物も盛りだくさんです。

 高熱を出して倒れたジョナがしきりにつぶやく「家に帰りたい」と言ううわごと。
 孤児院育ちのテールやジョナがどこへ帰りたいというのでしょう。
 もちろん、これは孤児院のことではありません。ジョナは自分だけの「家」がほしいのです。

 テールも、ジョナも、サンゴロウも、おそらくはコノミ先生もマーレも……
 彼らには帰る家がありません。それぞれの「寝る場所」くらいはあるとしても。
 たぶん、欲しいのは「家族」と「家族とともに過ごす家」なのです。

「ないのが、ほしければ、じぶんでてにいれるだけだ。そうだろう?」

 サンゴロウのことば。これは、小説内の言葉ではありますが、読者への言葉のようにも感じられます。

 ハードボイルドの主人公はたいてい天涯孤独で帰るところがありません。
 そして、過酷な幼少期の影響で心が乾いています。それでも、自分の居場所を求めている。

 もしかしたら、読者のなかにもそんな気持ちでいる子どももいるかもしれません。
 厳しい環境の中で、サンゴロウたちが疾る青い青い海を心に描いて憧れに胸を焦がしている子もいるかもしれません。

 「ないものが、ほしければ、じぶんでてにいれるだけだ」と言うサンゴロウの言葉は、そんな子の心に希望をともしてくれるかも。

 この台詞のくだりは、前後の関係を見てもあってもなくてもいい言葉なのです。なくてもストーリーは通じる。
 でも、ここで竹下先生はこの言葉を書いた。
 深いメッセージを感じます。

 どこにも居場所がなくても。帰る家がないように感じられても。一人ぼっちのように感じても。

 そんな人たちは実はたくさんいて、テールやサンゴロウたちのように、いつかめぐり合う。

 取り扱っているテーマが深いので対象年齢は小学校高学年ですが、読みやすい文章です。ふつうの文章よりはひらがなの配分が多く、総ルビではありませんが簡単な漢字以外には振り仮名が振ってあります。
 ボリュームはないので物語を読みなれた賢い子なら中学年くらいから読めます。

 ハードボイルドと猫がお好きな方に。
 大人が読んでも面白く、心洗われるファンタジーです。

 この夏、どこまでも青い海を疾る冒険物語をどうぞ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 「黒ねこサンゴロウ」と同じ世界観なので、サンゴロウシリーズを読んでからのほうがわかりやすいですが、読まなくても理解できます。

 ハードボイルドや猫が好きな方に。
 また、哲学的なテーマもあり、孤独感をかかえたお子さまにもおすすめです。

 

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