【三日月ジョリー】「黒ねこサンゴロウ」の姉妹シリーズ。海をゆく野良猫ハードボイルド第2巻【三日月島のテール】【小学校高学年以上】
おれの名はテール。海の宅配便「ドルフィン・エクスプレス」の配達員だ。ある日、ひょんなことからスリの女の子ルキを助け、めんどうを見ることに。だけど、ルキのもっていた財布から、さらなる危険に巻き込まれ……あの「黒ねこサンゴロウ」の姉妹版が新装版で。
この本のイメージ 野良猫☆☆☆☆☆ ハードボイルド☆☆☆☆☆ サスペンス☆☆☆☆☆
三日月ジョリー 三日月島のテール 2 竹下文子/作 鈴木まもる/絵 偕成社
<竹下文子>
竹下 文子(たけした ふみこ、1957年2月18日 ~ )は 日本の児童文学作家。夫は画家の鈴木まもる。福岡県生まれ、東京学芸大学教育学部卒業。大学在学中より執筆を行う。1978年「月売りの話」で日本童話会賞受賞。1979年『星とトランペット』で第17回野間児童文芸推奨作品賞受賞。1985年『むぎわらぼうし』で絵本にっぽん賞受賞。1994年『黒ねこサンゴロウ旅のはじまり』『黒ねこサンゴロウキララの海へ』で路傍の石幼少年文学賞受賞。2009年『ひらけ!なんきんまめ』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。2020年『なまえのないねこ』で日本絵本賞、講談社絵本賞受賞。(wikipediaより)
<鈴木まもる>
1952年、東京都に生まれ。「黒ねこサンゴロウ」シリーズで赤い鳥さしえ賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。
伝説の児童小説「黒ねこサンゴロウ」の姉妹シリーズ「三日月島のテール」シリーズ。初版は2003年岩崎書店から。第1巻「ドルフィン・エクスプレス」が出版されてから20年経って2022年、偕成社から新装版が出版されました。表紙は鈴木まもる先生描き下ろし。挿絵も新しいカットが追加されています。
お話は一話完結で、どの巻から読んでも大丈夫なつくりになっていますが、第1巻「ドルフィン・エクスプレス」から順番にお読みになったほうがわかりやすいでしょう。
「ドルフィン・エクスプレス」のレビューはこちら↓
また、このシリーズだけでも充分面白くて楽しめるのですが、「黒ねこサンゴロウ」と同じ世界観ですのでより深く理解するためには「黒ねこサンゴロウ」シリーズと「黒ねこサンゴロウ旅のつづき」シリーズをお読みになったあとにお読みになることをおすすめします。
「黒ねこサンゴロウ」のレビューはこちら↓
今回のストーリーは……
アサギ岬のチョクハイで、荷物を取りに行ったテールはミヤケ・ハナさんと言うおばあさんがオーブンから火事を出しそうになっているのを助けます。ハナおばあちゃんは息子のためにクッキーを焼いていたところ、ほかの事に気をとられて焼きすぎてしまったらしい。
お年寄りの一人暮らしが気になりつつも、ハナさんの家をあとにしたテール。
ところが面倒ごとは続くもので、今度はひょんなことから、スリの女の子ルキを拾って面倒をみるはめになってしまいます。
しかし、ルキが港のごろつき赤とらからすった財布をきっかけに、テールはさらなる面倒ごとに巻き込まれてしまうことに。
こわもて用心棒のブッチ、妖艶な白ねこ秘書たちが暗躍する、黒い噂の耐えない「黒丸商会」に、テールは乗り込んでゆくはめになるのでした。はたして、テールの運命は……?
……と、言うのがあらすじ。
この物語は「ねこ族」と言う二足歩行している猫が服を着て人間の言葉をしゃべり生活している世界でのファンタジー。「黒ねこサンゴロウ」シリーズと同じ世界観で、今回の舞台は三日月島です。
第1巻では特別出演でサンゴロウが登場しましたが、今回はサンゴロウは登場しません。けれど、第1巻よりもかなりハードな展開になっています。
「三日月島のテール」シリーズも、「黒ねこサンゴロウ」と同じ、「ねこ+海+ハードボイルド」がコンセプトのようです。
ハードボイルドというのは、ちょっとダークな世界の事件をあまり感情を交えず淡々と描いたサスペンスストーリーのこと。ニヒルなサンゴロウの一人称で語られる「黒ねこサンゴロウ」はまさにハードボイルドの世界でした。
子ども向けの番組でも、「ルパン三世」や、「紅の豚」「カウボーイビバップ」「仮面ライダーW」「コブラ」などがハードボイルドのジャンルに入ります。あと、真面目なときの「シティーハンター」とか。最近だと「SPY×FAMILY」はハードボイルドに入るかも。
「黒ねこサンゴロウ」のレビューでも、さんざん書いたのですが、わたしは「ハードボイルドは若者の特権」だと思っています。
それはね、若い頃はこういう、殺伐として乾いた大人の世界を「渋くてかっこいい」と感じたりもするものなのですが、自分がいざ大人になってみると、大人って案外大人ではないし、けっこう内側はいつまでたっても子どもだし、あんまり渋くもかっこよくもないことに気がついてしまうからなのです。もちろん、自分も含めて。
だから、ハードボイルドを楽しむのは若けりゃ若い方がいいんです。
自分が大人になったら、嫌でも子どもっぽくて、頼りなくて情けない大人たちの世界を見ることになるんですから。
この物語はだいたい対象年齢が小学校高学年くらい。ふつうの文章よりはひらがなの配分が多く、総ルビではありませんが簡単な漢字以外には振り仮名が振ってあります。物語を読みなれた賢い子なら中学年くらいから大丈夫。
児童書でここまで本格的なハードボイルドのシリーズは珍しいですが、子ども向け番組でもハードボイルド系は定期的に生まれて、いつも一定の人気があるので、サスペンスや探偵ものが好きならきっとはまるはず。
テールは、サンゴロウほど乾いているわけではなく、まだまだ熱いところもある青年です。
けれどテールにも、どうやらつらい過去があり、それにふたをしてちょっとニヒルになってしまった部分があるようです。
「三日月島のテール」シリーズは、このテールの「固ゆで」の部分が、だんだんとほぐれてゆくお話なのかもしれません。
鈴木まもる先生の挿絵が、まるっとしていてかわいいのに猫のプロポーションで猫らしい動きをしていながら、二足歩行をしていて、そして、ちゃんとハードボイルドタッチで、物語にぴったり。どうしたらこんな絶妙な絵が描けるのでしょうか。
「カウボーイビバップ」「仮面ライダーW」「SPY×FAMILY」などがお好きなお子さまならおすすめ。コナンくん好きでもはまるかも。推理はないけれど、謎解き要素があるサスペンスストーリーで、伏線回収もあります。もちろん、大人が読んでも面白い。
猫が好きでサスペンスやミステリーが好きな方にはぜひ。
「黒ねこサンゴロウ」からのシリーズなので、長く楽しめますよ!
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。「黒ねこサンゴロウ」と同じ世界観なので、サンゴロウシリーズを読んでからのほうがわかりやすいですが、読まなくても理解できます。謎解き要素もあるので、ミステリーやサスペンスが好きな人におすすめです。
ミステリアスな事件と同時にテールの内面の成長物語も描いているため、HSPやHSCのお子さまのほうが様々なことを読み取れるでしょう。
読後は、チョコレートクッキーでティータイムを。
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