【風の靴】アーサー・ランサムファン必読!小型帆走船で海を駆ける、秘密の大冒険。【小学校高学年以上】

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風の靴   朽木祥/作 柏村勲/表紙  服部華奈子/挿絵   講談社

中学受験に失敗し、「サイテー」の心境だった海生(かいせい)が、大好きなおじいちゃんを失って「サイアク」になった夏。彼は、親友の田明と、愛犬と、そしてひょんなことで合流した八千穂とで、秘密の「家出」を決行した。「風の靴」を履いて……

この本のイメージ アーサー・ランサムが好きなら☆☆☆☆☆ 海とキャンプ☆☆☆☆☆ 自分探し☆☆☆☆☆

風の靴   朽木祥/作 柏村勲/表紙  服部華奈子/挿絵   講談社

<朽木祥>
広島市生まれ。上智大学大学院博士前期課程修了。首都圏の大学で教えながら、2001年より児童文学の創作を始める。「かはたれ」(福音館書店)で第35回児童文芸新人賞、第39回児童文学者協会新人賞ほか受賞

<柏村勲>
1924年、広島県呉市生まれ。東京美術学校(現東京芸術大学)油絵科卒業

<服部華奈子>
1980年、栃木県生まれ。地元公立中学校を卒業後、ひたすら絵を描き続けて現在に至る。2008年、突然それまで目もくれなかった画材としての鉛筆の使い心地に目覚め、鉛筆画を始める。

風の靴   朽木祥/作 柏村勲/表紙  服部華奈子/挿絵   講談社

 初読です。初版は2009年。

 祖父から帆走船の操り方を教わっていた主人公が、「家出」をし、海に出て、様々な体験をしながら自分を取り戻してゆくお話です。

 わたしは、最近になって児童文学の魅力に目覚め、読み始めた人間です。だから、知らない名作がたくさんあるのです。
 でも、子供の頃は、「ドリトル先生シリーズ」や「アーサー・ランサム」全集が大好きで、夢中で読んでいました。とくにランサム全集はデザインもかわいくて、当時あれのファンだった人は多いと思います。

 現在、ランサム・サーガとして岩波少年文庫で入手可能なアーサー・ランサムのシリーズですが、内容としてはSFやファンタジーではなく、とてもリアルな少年少女のアウトドアものです。
 夏休みに子供たちが、子供たち同士でヨットに乗って競争したり、無人島でキャンプしたりして過ごすお話。

 昔から身体が虚弱で、乗り物も苦手、体力もないわたしですが、だからこそ、憧れいっぱいで読みました。
どんな困難があっても、創意工夫で乗り越えてゆく、ウォーカーきょうだい、ブラケット姉妹、Dきょうだい。男の子も女の子も関係なく、力いっぱい冒険し、ジョンが女の子のナンシィを本気で尊敬しているのも好き。

 この「風の靴」をはじめて読んだとき、アーサー・ランサム全集第1巻「ツバメ号とアマゾン号」を読んだときの、あのわくわくした気持ちが胸いっぱいに広がりました。潮の香りのする、きらきらした青い水面が目に浮かびます。しかも、解説は「アーサー・ランサム」全集の翻訳をされた神宮輝夫先生。うわあ、完璧じゃないですか!

お話は……

 兄、光一と同じ名門啓光学院の中学受験に失敗した海生は、友達たちと地元の南鎌倉中に進むも、気分は最低だった。
 三年後にもう一度啓光の高等部を受験することになり、劣等感と挫折感、窮屈さでモヤモヤしていたところに、大好きなおじいちゃんの突然の死。

 サイテーがサイアクになった夏。

 重苦しい気持ちを振り払うように、海生は家出する。
 親友の田明と愛犬のウィスカー、そして、飛び入りで参加した田明の妹、八千穂の四人で、帆走船で弁天島から風色湾を目指すのだ。

 ところが、海上で漂っていた男を発見し……

 ……と、いうのがあらすじ。

 同じ親から生まれ、同じ環境で育ったとしても、兄弟はそれぞれ別の人間です。けれど、なまじ遺伝子や環境を共有しているので、「お兄ちゃんにできたなら、弟にもできるはず」「同じように育てているのにどうしてできないの」などの期待や失望で苦しむことがあります。

 主人公の海生は、そんな状態にいました。

 ただ一人、「ありのままの」海生をかわいがってくれていたのはおじいちゃん。おじいちゃんは、海生にヨットの操り方を教えてくれた人です。
 中学に合格したら、大好きなおじいちゃんとヨットに乗るつもりだったのに……
 大好きなおじいちゃんとヨットに乗るのもがまんして受験勉強したのに……

 受験には失敗し、おじいちゃんは死んでしまう。

 これ、大人でもこういうことがありますよね。家族のために馬車馬のように働いていたのに家族が交通事故で死んでしまうとか、マイホームのために頑張っていたのに天変地異で家を失い、家族との時間もとれないとか。

 理屈では正しいことを頑張っていたはずなのに、努力は実らず、意味のある結果にならなかったとき……

 海生は、「家出する」と言って、海に出ます。

 現実には、子どもが自暴自棄になってヨットで海に出るといったらかなり危険な展開なのですが、このお話では海生は一人ぼっちではありません。

 親友の田明や愛犬のウィスカー、そして田明の妹の八千穂もこの「家出」に加わります。
 心から信頼できる人たちと、大好きなディンギーを夢中で操っているうちに、海生は、「本当の自分」を掘り起こしてゆくのでした。

 子供から大人へと移行しようとしている時期の、「自分探し」の物語。大人が読んでも考えさせられることがたくさんあります。
 「ほんとうの自分」とは何なのか、「周囲から期待される自分」とどう折り合いをつけてゆくのか……。

 そして、冒険を終えた海生は、そんな悩みと格闘していたのは自分だけではなかったと気づくのでした。

 子どもたちだけで海をゆくというとランサムの名作「海へ出るつもりじゃなかった」を思い出します。事実、海生のおじいちゃんの愛読書として「海へ出るつもりじゃなかった」が登場します。

 解説の神宮輝夫先生も書かれていますが、息苦しさから家を飛び出したと言っても、発作的な家出ではないんですね。心の赴くままに家を飛び出し、目のつくところにあったヨットに飛び乗って海に出てしまう、と言うような展開ではないのです。

 家出を決意してからも、海生たちは計画的に準備し、持ち物もリストアップして用意します。行き当たりばったりではないのです。このあたりは、ランサムファンだと「おおっ」と思うところ。ヨットが大好きな海生だけでなく、親友の田明も、友のために一通りは綱のもやい方を練習してマスターしているのがすごい。(ちなみに、わたしはできません)

 要所要所の記述が本格的で、おそらく自分でセーリングをしている方は読んでいて楽しいだろうし、わからない人が読んでも手を抜かない描写に深みを感じます。

 深いところにテーマが流れているのですが、気持ちのすれ違いはあれど、登場する人々が全員いい人なので、それぞれの絡み合った気持ちが解け、わかりあえてゆくラストではさわやかな風が吹きます。

 わたしたち世代には、どこかなつかしさがあり、そして、今の若い人たちは自力で船を動かす大冒険にわくわくするはず。後半では海岸でキャンプをするシーンあり、ねこじゃらしで作るポップコーンや、たき火で焼くマシュマロなど、絶対やってみたくなりますよ。

 ランサムファンなら、ここで濃く淹れたミルクティーや、バターで焼いた魚やペミカン、デザートのチョコレートなどを食べたいところ。

 夏にぴったりの、自分探しの物語。大人が読んでも楽しめます。

 お天気がよくなかったり、自宅療養などで外に出られないときの、読書タイムにおすすめです。潮風にそよがれている気持ちになれる、さわやかな児童文学です。

 ※この本には電子書籍もあります。

 ※この本を100%楽しみたい方は、「ツバメ号とアマゾン号」「海へ出るつもりじゃなかった」「冒険図鑑」をお読みになることをおすすめします。

 ※主人公が中学生なので、中学生以上でもよかったのですが、振り仮名がわりと手厚いのと、小学校高学年あたりから読んでいただきたいなという気持ちでこのブログでは「小学校高学年以上」とさせていただきました。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。子供から大人へと成長してゆく時の、「自分とは何か」と言う問いへの答を探す物語です。大人が読んでも、しみじみと感じるものがあります。

 ヨット関係の描写が本格的で、アーサー・ランサムのファンなら間違いなく好きになるでしょう。解説は神宮輝夫先生です。
 読後は、焼きマシュマロが食べたくなるはず。

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