【野ばらの村の山のぼうけん】黄金を探して山へと大冒険!愛されるロングセラー【アドベンチャーシリーズ】【小学校低学年以上】
毛布を虫に食われてこまっていたハイ・ヒルズのはたねずみたちのために、リリィとフラックスは毛布を織ってとどけることに。本を読んでハイ・ヒルズにあこがれたウィルフレッドは一緒に行きたいとせがみ……
この本のイメージ 動物ファンタジー☆☆☆☆☆ 美しい絵☆☆☆☆☆ 山の大冒険☆☆☆☆☆
野ばらの村の山のぼうけん ジル・バークレム/作 こみやゆう/訳 出版ワークス
<ジル・バークレム>
1951年にロンドン郊外にあるエピングの森の近くで生まれた。ロンドンのセント・マーチンズ美術学院に学んだが、毎日ロンドン市内に通学するうちに、エピングの豊かな自然と生活をあらためて見直すようになり、それが“のばらの村のものがたり”シリーズとして実を結んだ。1981年第16回世界絵本作家原画展(至光社、丸善供催)みみずく賞、1982年度ボローニャ国際児童図書展エルバ賞を受賞
原題はBrambly Hedge : The High Hills.イギリスでの初版は1986年。日本語版は、かつて 岸田衿子訳「ウィルフレッドの山登り 」というタイトルで、講談社から1986年に出版されました。
一度絶版になり、出版ワークス様から2022年に出版されています。新訳は小宮由先生です。
「野ばらの村」シリーズは、どの順番で読んでも楽しめるのですが、順番通りに読みたい方は、まずは第一巻「野ばらの村のピクニック」からお読みになってください。
※「野ばらの村のピクニック」のレビューはこちら↓
今回のお話は……
ハイ・ヒルズのはたねずみたちの毛布が虫に食われてしまったらしく、リリィとフラックスは大急ぎで毛布を織っています。
ウィルフレッドはリリィたちの仕事をみながら、そこにあったホアハウンド卿の宝探しの物語を読んで心を奪われていました。自分もハイ・ヒルズに登って黄金を探したくなったのです。
フラックスたちと一緒にハイ・ヒルズに行きたいとお母さんにせがんだウィルフレッド。意外にも許可がおり、リリィ、フラックス、アップルおじさんと一緒にウィルフレッドは山に登ることになります。
無事にハイ・ヒルズに到着しもてなしをうけたウィルフレッドたちでしたが、帰り道、リリィとフラックスたちと別れ、アップルおじさんとふたりで別行動をした後、道に迷ってしまいます……
……と、いうのがあらすじ。
子ども向けのよくあるお話だと、小さな子どもが大人の制止をふりきって無謀な冒険をして危険な目にあい、大人が助けにゆき反省する、と言うものが(日本では)多いような気がします。
「無茶なことばかりしていないで大人の言うことをよく聞きなさい」、とか、「何かをはじめるときにはよく調べてちゃんと準備をしてからね」、と言うような意図があるのかもしれません。
日本は仏教の影響が濃いので昔ながらの「宝探しの大冒険」が「宝を見つける」形でラストを迎えることが少なく、宝はすでに失われており「宝ものは一緒に冒険した仲間たちだった」とか「宝はこの冒険そのものだった」と言う結末がスタンダードです。
それはそれでいいのですが、「苦労して宝を手に入れる」と言う、シンプルなハッピーエンドは他人のやらない何かにチャレンジしてみようという気持ちを掻き立てます。
最近のお話だと「ゴールデンカムイ」はちゃんと宝があったのが満足感が高くて、やはり苦労したからには何かしら物理的にも手にはいるものもあったほうがいいよねと思います。
この「山のぼうけん」は、少年ずみのウィルフレッドがホアハウンド卿の黄金探しの物語を読み、ハイ・ヒルズで宝探しをするのを夢見て大人たちの登山についてゆくお話。
よくある日本のお話だと、途中で体力が続かずに倒れてしまったり不注意で怪我をしてしまったりとしそうなものですが、この物語でいちばん用意周到だったのはウィルフレッド。ホアハウンド卿の物語を読んで必要なものはすべてリュックにいれてあったからです。
アップルおじさんとふたりで遭難してしまったときも、ウィルフレッドの用意したロープややかんなどが役に立ちましたし、その後もさまざまなアイディアで危機を乗り越えます。
大切なのは、「大人か子どもか」ではなく、「様々なことを想定してちゃんと準備をしているか」。
ウィルフレッドはちゃんとやったのです。
わたしはこのお話が地味に好きで、ウィルフレッドのような子を応援したくなります。そして、「子どもがついて行くなんて危ないわ、おうちにいなさい」などと言わず「山の空気和すってくるのも、この子にとっていいでしょう」と笑顔で送り出してくれるお母さんも尊敬します。
大きくても、小さくても人生には冒険が必要だし、冒険には周到な準備も必要。
衝動的に飛び出してしまうのは、冒険とは言いません。
ウィルフレッドは小さないけれどちゃんとした冒険家でした。
文章は読みやすく、漢字交じりですがすべての漢字に振り仮名が振ってある総ルビなので、五十音さえ読めればお子さまひとりでコツコツ読むことができます。ただ、文章の量が多いので小学校低学年以上におすすめ。
絵は、「ピーター・ラビットの絵本」のビアトリクス・ポターや妖精画家シシリー・バーカーのようなリアリティです。かぎりなくリアルに近い野ねずみたちを二足歩行させて、クラシックなイギリスの衣装を着せて生活させている動物ファンタジー。
また、イギリスの素朴な自然を美しく描いているのも魅力。
アドベンチャーシリーズは、クラシックな家の中だけでなく、ベリーがたわわに実った森や山の上の星空など戸外の美しいシーンを楽しめます。
お子さまの冒険心がそわそわし始めたら「野ばらの村アドベンチャーシリーズ」を。
大人たちと一緒にのびのびと冒険の旅に出るウィルフレッドに、大人ならほほえましく思うでしょうし子どもなら何かに挑戦してみたくなるかも。
秋の足音が近づいてくるこの季節におすすめの絵本です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はまったくありません。愛らしい絵とやさしい物語の絵本です。
ウィルフレッドを笑顔で送り出してくれるお母さんや、邪魔扱いせず一緒に冒険してくれる大人たちとの関係が読んでいてほっこりします。
動物が好き、イギリスのクラシックな雰囲気が好き、ピーター・ラビットが好き、シルバニアファミリーがお好きな方に。
読後は、たっぷりの濃いミルクティーでひとやすみ。
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