【白狐魔記】妖力を得た狐の冒険その三。洛中の火に、白狐魔丸は何を想うのか。【小学校中学年以上】

2024年2月11日

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白狐魔記 洛中の火 斉藤洋 偕成社

長い眠りから覚めた白狐魔丸は、里に降り、鎌倉幕府が終焉をむかえようとしているところに立ち会います……。洛中の火に、白狐魔丸は何を想うのか。

この本のイメージ 歴史ミステリー☆☆☆☆☆ サイキックウォーズ☆☆☆☆☆ 狐かわいい☆☆☆☆

白狐魔記 洛中の火 斉藤洋/作 偕成社

<斉藤洋>
日本のドイツ文学者、児童文学作家。亜細亜大学経営学部教授。作家として活動するときは斉藤 洋と表記する。代表作は「ルドルフとイッパイアッテナ」「白狐魔記」など。

 妖術を体得した狐が活躍する、和ファンタジー「白狐魔記」の第三巻です。第二巻は「蒙古の波」。歴史ミステリー満載の新感覚冒険児童小説です。

 この本が親切設計だなあ、と思うのは、各巻の冒頭に「前巻までのあらすじ」が載っているところ。
 長期連載漫画の単行本だとかならず「前巻までのあらすじ」と「登場人物紹介」のページがあるのですが、小説でここに力を裂いてくれているものは少ないのです。でも、いろんな小説を並行して読んでいる読者としては、絶対必要。これがあるだけで、どれだけ本の世界に入りやすいことか!

 しかも、巻末には歴史年表もついているのです!スバラシイ! 偕成社さま、ありがとうございます!

 ……てなわけで、今回のストーリーをざっくりご紹介。

 長い眠りからさめた白狐魔丸。インドに旅立った仙人様はまだ帰ってきていないようでした。

 下界の様子を探りに里に下りた白狐魔丸ですが、鎌倉幕府が終焉を迎えようとしていることを知ります。

 ひょんなことから出会った侍を通じて、楠木正成と心を通わせる白狐魔丸。

 また、偶然にも妖狐雅姫(つねひめ)とも再会、のちに彼女のたくらみを知ることとなるのですが…

 今回は、南北朝時代のお話。

 白狐魔丸はいつも「時代の傍観者」であり、歴史上の大事件に積極的に関っていくわけではありません。けれども、名もない人たちの個人的な問題に巻き込まれて、悩んだり苦しんだりします。

 今回の物語のテーマは「復讐」です。武士や公家の権力争いに巻き込まれて大切な人を失った者たちが、復讐に人生を捧げる物語に、白狐魔丸が立ち会います。

 白狐魔丸自身は狐のわりには情が深いし、狐らしく「復讐など無意味だ」と思っているので、なんとか止めようとするのですが、人間の執念の力には勝てず、結局、悲劇は起きてしまいます。

 大切な人の仇討ちに暗躍した雅姫が白狐魔丸の優しさに対し、「おまえには執念が無い」と言い放つ場面があります。
 白狐魔丸が人間を助けたいと思う、優しい心は本物だけど、その気持ちを常に抱き続け、思い続ける事は難しい。
 けれど、大切な人の仇を討ちたい、憎い相手に復讐したいと思い続ける者の執念は強い。
だから、復讐したいと思う人間を止めたければ、それ以上に「助けたい」という優しい気持ちを強く思い続けなければ勝てないのだ、と言うのです。

 地味に金言ですよね。悪役なのに。
ネガティブな感情は持続しやすいが、逆にポジティブな感情を持続させるのは難しい。けれど、本当に誰かを助けたければ、優しい気持ちや思いやりを「持ち続け」なければいけない。そうしないと、様々なネガティブな力に押し負けてしまう。

 大切なことだけど、これは、本当に難しいことです。

 人は瞬間的によいことを考えたり、したりは出来ます。そして、その「瞬間的なよい行動」だけでも、行動するだけ貴重なことなのです。それくらい、現代社会には「よいこと」をすることに対して、難しい何かがあります。
それを、一瞬たりとも気を抜かず、よき想いを抱き続ける、持続し続けることの難しさ……

 「武士は嫌い、人間は嫌い」な白狐魔丸ですが、心は純粋で情が深く、やさしい気持ちでいっぱいです。でも、彼が「やさしさの執念」とも言うべき、「やさしくあり続ける」ことができないのであれば、これからも、きっと様々な事件に巻き込まれて傷つき続けるにちがいない。

 雅姫の言いたいことは、そういうことなのでしょう。

 き、厳しい……。

 今回のお話は無常感にあふれた結末です。新しい妖術もおぼえ精神的にも成長した白狐魔丸ですが、やるせない展開に、あの、ゆるゆる仙人がなつかしくて仕方がありません。
仙人様、帰ってきてくださいよ……仙人様のいない白狐魔記は重過ぎます。

 次回、白狐魔記は「戦国の雲」ついに、戦国時代に突入です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 戦があります。流血、惨殺、首も飛びます。苦手な方にはおすすめしません。

 「そういうシーンがあるのだな」と前もって身構えていれば大丈夫な方にはおすすめです。日本史のおさらいにもなる、歴史ファンタジーです。
 おいしい緑茶と和菓子を用意して、ぜひどうぞ。

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