【橋の下の怪物】旧き者たち襲来! アメリカ発ゴシックファンタジー児童文学【ルイスと不思議の時計 8】【小学校中学年以上】

2024年3月16日

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橋の下の怪物  ルイスと不思議の時計 8   ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社

ワイルダー・クリークの古い鉄橋が取り壊されることになってから、ルイスは胸騒ぎが止まりません。あれは何か悪いものを封印しているように感じられたからです。ルイスの不安を取り除こうと、ジョナサン、ツィマーマン夫人、ローズ・リタは調査を開始しますが……

この本のイメージ ゴシックホラー☆☆☆☆☆ SF☆☆☆☆☆ 旧き者たち☆☆☆☆☆

橋の下の怪物  ルイスと不思議の時計 8   ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社

<ジョン・べレアーズ>
ジョン・ベレアーズ(John Anthony Bellairs、1938年1月17日 ~1991年3月8日)は、アメリカの小説家。児童向けのファンタジー小説を得意とした。代表作として『霜のなかの顔』、「ルイスと不思議の時計」シリーズ、「ジョニー・ディクソン」シリーズなど。

 アメリカからやってきた、ゴシックホラー「ルイスと不思議の時計」シリーズ第八巻です。原題はThe Beast Under the Wizard’s Bridge.初版は2000年。日本での初版は2004年です。

 本シリーズはシリーズ刊行中に作者のべレアーズが死去してしまい、アイディアメモをもとにして4巻から、オリジナルで7巻からSF作家のブラッド・ストリックランドが引き継いで書いています。
 本国アメリカでは12巻まで刊行されており、すでに完結しています。日本では、この「橋の下の怪物」までが翻訳されています。

 今回のお話ですが、ストリックランドになってから、最も面白く、引き込まれました。おそらく、SF作家のストリックランドが最も得意とするジャンルで勝負したからでしょう。
 なんとなんと、ルイスたちの敵として「クトゥルフの旧き者たち」が登場します!

 クトゥルフの旧き者たちとは、イギリスのSF作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft、1890年8月20日 ~1937年3月15日)が創作したオリジナルの神話「クトゥルフ神話」に登場する宇宙からやってきたイカみたいなタコみたいな邪悪な旧い神々です。
 彼の生み出した「クトゥルフ神話」に基づいて、数々の作家がそれぞれに料理し、多くの幻想小説が誕生しました。

 ちなみに、わたしはほとんど読んでいません。栗本薫先生の「魔界水滸伝」くらいです。理由は……怖いから。
 どっちかと言うと避けていたのに、今回、思いがけなく遭遇してしまい、凍りつきました。まさか児童文学でクトゥルフをやるとは。(でも、すごく面白かったので最後まで読みました!)

 関係ないけど、サ○リオのハン○ョドンってキャラクター、アレに似てませんか? アレですよ。クトゥルフのイのつくアレです。(いや、ハンギョ○ンかわいい。かわいいけど)

 さて、ストーリーは……

 ルイスたちの町に、古い鉄の橋がありました。
 それは、ルイスやジョナサンたちには、何か良くないものを封印する力があるような気がしていたのですが、老朽化のために取り壊されることになってしまったのです。胸騒ぎが止まらないルイス。

 不安を取り除こうと、ジョナサンとツィマーマン夫人の大人組、ルイスとローズ・リタの子ども組は、それぞれ橋の秘密を調べ始めます。

 そこには、かつて存在したエディドヤ・クラバノングという魔法使いがかけた魔法が関係していたのです。エディドヤは、自分の命を賭けて、おそろしい「何か」を呼び寄せようとしていたのでした。
 しかし、なんらかの事故でエディドヤは命を落とし、その後、甥のエリフが遺品をすべて燃やし、鉄の橋を建てたのでした。

 エディドヤのおそろしい魔術は、失敗していたのでしょうか。それとも……

 そんなとき、ルイスたちは、あやしげな夫婦に出会います。
 彼らはメフィストフェレス・ムートとその妻アーミン。橋の設計者エリフの弁護士だった男です。ふたりは、エディドヤが行った魔法と橋の秘密について、知っているようなのです。

 そして、赤色彗星が近づくとき、何かが復活しようとしていたのでした……

 と、いうのがあらすじ。

 謎また謎の連続で展開が早く、またルイスだけでなく、すべてのキャラクターが強大な敵に対して全力を尽くします。そうそう、魔法が苦手な魔女、ミルドレッド・イェーガー夫人も活躍します。こういう再登場はうれしいですね。

 ツィマーマン夫人が本当にかっこいい。いつもの紫のドレスとかさが、魔女のローブと杖に変化して戦うシーンは、映像的で大好きです。

 ルイスは根性を出して古井戸に入りますし、閉所恐怖症のローズ・リタも頑張ります。互いが互いのために頑張るシーンは胸が熱くなります。

 こんなにがんばるルイスなのに、いつもお話がこじれるのは、孤児であるルイスが叔父のジョナサンが大好きで、それだけに迷惑をかけて家から追い出されたくないと、心配事や自分の失敗を隠そうとするからなのです。今回もそうなのですが、ルイスはこのパターンからなかなか抜け出せません。

 ジョナサンは海のように深い愛情でルイスを育てているのですが、ルイスのほうはどうしてもまだまだ居候気分で、毎日不安でしょうがないのです。

 ローズ・リタは、そんなルイスの不安に寄り添います。そして、ジョナサンはそんなルイスの不安ごと受け止めます。

 翻訳の三辺律子先生も解説で書かれていますが、原作者のジョン・べレアーズの感覚の新しさに驚かされます。
 べレアーズは、1938年生まれなのですが、主人公のルイスが気弱で内向的な男の子、ヒロインのローズ・リタがスポーツ万能で冒険好きの勝気な女の子、ツィマーマン夫人が学位を持つ優秀な魔女、ジョナサンが母性的な包み込む優しさをもったへっぽこ魔術師と、従来の固定観念を覆すキャラクターたちを生み出しています。

 また、この四人には、ジョナサンとルイスの叔父甥関係以外、血のつながりがなく、ほぼ他人同士。ジョナサンとルイスも、ルイスの両親が死ぬまで会ったこともなかったと言う、見ず知らずに等しい関係でした。
 そんな四人が数々の困難を乗り越え、実の家族より深い信頼関係を築きます。

 1930年代生まれの男性作家が、ここまで新しい男女像、家族像を打ち出していたのは画期的ではないでしょうか。今読んでも、3巻までのべレアーズ部分は新しすぎます。

 シリーズ全体のストーリーとしては、まだまだ未完なのですが、今回のお話でルイスとジョナサンの心の距離が縮まり、ふたりの関係に置いてはひとまず、めでたしめでたしとなります。でも、やっぱり、続きが読みたい!

 この素敵なシリーズに出会えたことに、心から感謝しつつ、残りの四冊も、ぜひ翻訳、出版していただきたいです。
 首を長くして待っていますので、出版社さま、よろしくおねがいします!(と、テレパシー)

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ちょっと不気味で怖い怪物が出てきます。イカタコ系です。でも、「そういう展開があるのだな」と身構えていれば大丈夫な方にはおすすめです。展開がダイナミックで、とても面白いストーリーです。それに、ハッピーエンドです。大丈夫。

「ルイスと不思議の時計」と言えば、チョコチップクッキーなのですが、今作中のツィマーマン夫人のアップルパイがかなりおいしそうなので、読後はアップルパイでティータイムもいいかも。

 

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