【魔女の宅急便】キキの成長物語完結編。キキと子どもたちの物語【それぞれの旅立ち】【小学校中学年以上】

2024年3月28日

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魔女の宅急便 その6 それぞれの旅立ち 角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店

キキはとんぼさんと結婚し、ふたごの子どもたちを育てながら幸せに暮らしています。ふたごのこども、ニニとトトも、そろそろ13歳、ひとりだちの時を迎えようとしていました……

この本のイメージ 自分の人生☆☆☆☆☆ 旅立ち☆☆☆☆☆ 大人になる☆☆☆☆☆

魔女の宅急便 その6 それぞれの旅立ち 角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店

<角野栄子>
日本の童話作家、絵本作家、ノンフィクション作家、エッセイスト。日本福祉大学客員教授。代表作は「魔女の宅急便」

 「スタジオジブリ」宮崎駿監督によって1989年にアニメーション映画にもなった「魔女の宅急便」第6巻完結編です。また2014年、清水崇監督により実写映画化されました。

 「魔女の宅急便 その6 それぞれの旅立ち」は初版が2009年です。

 「魔女の宅急便」は、それぞれ、1冊でお話が完結しているのですが、全体でひとつの長いお話として続いているので、ぜひ、1巻から順番にお読みください。1巻のレビューはこちら。↓

 13歳で独り立ちしてから、1年ずつ、キキの成長を描いていたこのシリーズですが、6巻の冒頭では一気に時が流れています。

 キキはとんぼさんと結婚して幸せに暮らしており、ニニとトトと言うふたごの子どもたちがいます。ニニは女の子でトトは男の子。

 おソノさんの娘ノノちゃんと、モリさんの弟ヤアくんの結婚式でこの物語は始まります。

 いままで登場した人たちがみんなそれぞれ成長して、それぞれの道を歩んでいる最終巻、キキはキキの子どもたちの旅立ちを見送る側になります。

 女の子のニニは魔女になるのかならないのか、トトの将来はどうするのか……

 未来へのわくわくした希望と何が襲ってくるのかわからない不安のあいだで揺れながら、それぞれがそれぞれの結論を出し、歩き出す物語です。

 魔女である女の子のニニと、魔女の子どもだけど男の子のトトの悩みは、生まれつきの才能を持っているかいないかの問題にも似ています。

 また、伝統的な日本の「長男問題」を逆転させたようにも見えて、そこも新鮮でした。

 女の子のニニは、13歳になったら魔女として独り立ちしなければなりませんが、「魔女にならない」と言う選択も残されています。キキは子どもの将来を押し付けない主義なので、もしもニニが魔女にならない選択をするならば、尊重しようと心に決めています。

 つまり、ニニは先祖代々から受け継がれた魔女の道と、そうでない生き方のどちらも選べるのです。

 その一方でトトは男の子なので魔女にはなれません。魔女ではない何か別の、自分だけの人生を探さなければなりません。

 ニニとトトがこれからの人生をどう選んでゆくのか、そして、キキはそんなふたりをどう見守るのか……これが「魔女の宅急便」最終巻のお話です。

 明るいニニちゃんは、勝気でポジティブ、失敗したり悩みがあったりしてもあまり長くクヨクヨしません。それに対してトトくんは、内向的で繊細な性格です。

 幼い頃のニニちゃんは、かなり気まぐれで傍若無人な女の子です。この、謎の全能感といい、一緒にいるトトくんの微妙な劣等感といい、一昔前の年齢が近い長男と姉を逆転させたみたいです。これは狙って書いていらっしゃるんじゃないでしょうか。ニニの行動がかなりリアルで、ニニに振り舞わされて劣等感を感じてしまうトトには共感してしまいます。

 けれど、ニニちゃんも彼女なりに将来のことを悩んでいないわけではないのです。最初から魔女以外の人生を探すしかないトトには「選ばれなかった」と言う悩みがありますが、ニニはニニなりに、魔女になっていいものかどうか、覚悟が決まりませんでした。

 そんなふうにそれぞれの形で悩むふたごに対して、キキととんぼさんも親として精一杯のことをしてあげようとします。
 子どもの頃はなるべくふたり一緒にと、キキがニニとトトの両方に相棒の黒猫をもらってきたり、とんぼさんがニニとトトのふたりにおそろいのほうきをつくってあげたりして、13歳まではふたりをわけ隔てなく育てるのです。

 トトは男の子だけど、もしかしたら新しい時代には魔女になれるかもしれない。そう思ってキキととんぼさんがトトの分も黒猫やほうきを用意してあげるのがあたたかい。自分の力ではどうにもならないことは極力減らし、それぞれが自力で納得のゆく人生を選択させてあげたいという親心を感じます。

 ニニとトトがどんな未来を選ぶのか……それはお読みになって確かめてみてください。

 キキの空を飛ぶという能力はニニに受け継がれたけれど、キキの繊細な性格はトトが受け継いだようです。だから、いままでの五冊をキキの気持ちで読んできた読者は、ニニよりもむしろトトの気持ちで読んでしまう気がします。

 この最終巻、もしわたしが子どもの頃に読んでいたら、この巻の良さはあまりわからなかったかもしれません。けれども、心配で思わず手を出しそうになるけれど子どもたち自身の力で未来を切り開いてほしいと願い、もどかしく感じながらも距離を置いて寄り添うキキの気持ちや、それぞれの立場で揺れるニニとトトの気持ちが、歳をとると深く心にしみるのです。

 「魔女の宅急便」は13歳のキキの旅立ちからはじまる、女の子の成長物語でしたが、最後に男女を逆転させてトトの成長を描くところは、やはり時代の流れ。

 子どもから大人へと階段を駆け上がってゆく年頃の、瑞々しい物語です。

 読みやすい文章なので、小学校中学年から読めますが、この最終巻は大人にもおすすめです。最初から読むと、キキの成長を感じて、感慨もひとしお。娘の成長を見るみたいです。

 ラストシーンは美しく、余韻があります。でも、子どもの頃だったら、やっぱりこのラストも知りきれとんぼみたいに感じて、すばらしさが理解できなかったかも。いいラストです。

 どこか懐かしい気持ちになる、やさしい魔女の成長物語。春から夏になってゆくこの季節におすすめです。この機会に、第1巻から読んでみるのはいかがでしょうか。

 読み終わると、しみじみと「がんばろう」と思える、不思議な魔女ストーリーです。

※この本には、角川版の電子書籍がありますが、佐竹美保先生の挿絵が好きな方はぜひ福音館版で。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。成長したキキに「あの小さかったキキが……」と感慨無量になり、キキの子どもたちの等身大の悩みには、「うんうん」「あるある」と共感する、さわやかな成長物語です。

 非常に繊細で、様々なメッセージがちりばめられており、それをあえて全部は説明しないスタイルなので、HSPやHSCの方におすすめです。より多くのメッセージを受け取れるでしょう。

 読後はユスラウメのジュースが飲みたくなりますが、市販されていないので、クランベリージュースで気分だけでも……

 

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