【魔女の宅急便】キキの物語四冊目。17歳になったキキのラブストーリー【キキの恋】【小学校中学年以上】

2024年3月17日

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魔女の宅急便 その4  キキの恋 角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店

コリコの町でおとどけものやさんをするキキも今年で四年目。17歳になりました。思春期になったキキは、夏休みをとんぼさんと一緒にすごしたいと思っていましたが、とんぼさんは一人で山にこもってしまいました……。

この本のイメージ 自分とは☆☆☆☆☆ 成長とは☆☆☆☆☆ キキの恋☆☆☆☆☆

魔女の宅急便 その4  キキの恋 角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店

<角野栄子>
日本の童話作家、絵本作家、ノンフィクション作家、エッセイスト。日本福祉大学客員教授。代表作は「魔女の宅急便」。

 「スタジオジブリ」宮崎駿監督によって1989年にアニメーション映画にもなった「魔女の宅急便」4巻目です。また2014年、清水崇監督により実写映画化されました。

 初版は2004年。おおう、わたしが人生一番忙しかった頃です。この頃、世間で何が起きていたのか、とんと思い出すことが出来ません。このシリーズ、アニメーション映画化されたあとも、ゆっくりと続いていたんですね。

 4巻でキキは17歳になります。
 世間の女の子たち━ミミさんたちは、きれいに着飾って青春を謳歌しています。13歳で独り立ちし、働き始めたキキには、青春らしい青春がなく、同い年の女の子たちを少しうらやましく思うようになりました。

 とんぼさんは、遠くの町の学校に行ってしまい、夏はコリコの町に戻ってきてくれて一緒にすごせると思っていたら、「山にこもる」と手紙をよこし、電話も郵便局もない山にキャンプに出かけてしまいます。

 がっかりするキキ。そんなキキのところに、森で暮らすモリさんの弟のヤアくんがやってきます。いたずらっ子だったヤアくんは不思議と大人びた少年に成長していました。

 さて、キキの17歳の夏はどんな夏になるでしょう……

 と、いうのがあらすじ。

 同い年の子達より一足先に働き始めたキキでしたが、友達のモリさんもそろそろ将来のことを考え始めます。彼女は自分でお店をやりたくて、尊敬している人が経営するレストランで短期修行をすることにしました。そのあいだ、キキがヤアくんを預かるのです。

 おしゃれなミミさんは、華やかに青春を謳歌しています。

 13歳のころから変わらぬ生活をしているキキは、ふたたび自分がゆらぎはじめました。

 ふつうの子どもより自立が早かった子どもは、こんな気持ちになることもあるのかもしれません。そして、娘らしい恋心も抱き、とんぼさんのことでやきもきしたりもします。

 読者から見れば、「13歳から一人で生活しているキキに追いつくために、とんぼさんは夏に一人で山で生活しようとしたんだろうな」とわかるのですが、夏休みはとんぼさんと過ごせると楽しみにしてずっと働き続けてきたキキにはそれがわかりません。
 キキはがっかりして傷ついてしまいます。

 最初の「魔女の宅急便」からずっと、キキは自分自身の力で働いてゆく確かさと、ふつうの女の子ではないさみしさのあいだを行ったりきたりします。そして、定期的に、ふつうの女の子の時間を過ごせないことに劣等感を感じて自信をなくしてしまいます。

 「大人は一人でいくんだよ」と言うヤアくんの言葉に象徴されるように、キキは今回の話で、思春期の自立のときを迎えました。
 子ども時代からの自立とはちがい、同い年くらいの少女たちとおなじような青春をおくりたいとか、好きな男の子と一緒にいたいとか、そういう気持ちから自立して「自分の生きる道」を確立する「自立」です。

 一度脱却したらずっと強靭メンタル、というわけではないのが、この年頃の女の子のリアル。
 でも、キキには本能ともいえる「魔女の計算」があり、最終的にはうまくゆくのです。

 原作の「魔女の宅急便」のなかで重要ワードとしてたびたび登場する「魔女の計算」。これは、魔女たちが持つ本能といえるし、魔女が呼び込む不思議な「予定調和」ともいえます。魔女のすることは、一見理屈が通らなくても、本人が失敗したと思い込んでいたとしても、実はそれがすべて必要なことだった、と言うのが「魔女の計算」です。

 これ、魔女でなくても実際に、よくあることですよね。
 寝坊して電車に乗り遅れたと思っていたら、その列車が事故に遭っていたりとか、風邪をひいて学校を休んでがっかりしていたら、留守番していた自分に偶然のおとどけものがあったりとか。

 運が悪かった、失敗したと思っていたことが結果的に幸運だったりする、「塞翁が馬」とも言われます。

 ものも、人間も、できごとも、表面的な見た目ではわからない、と言うことなんでしょう。
 キキは今回も、ゆっくりと成長します。

 この本が出版されたのは2004年、第1巻の魔女の宅急便の初版は1985年です。
 この時代の常識を知っている女性が読むと、キキの家の家族構成だけで読み取れることがあります。

 それは、コキリさんとオキノさんは恋愛結婚であること、そしてコキリさんはおそらく身体が弱いだろうと言うこと。この4巻でその種明かしがされます。

 なぜかと言うと、それはキキが女の子の一人っ子だからです。

 この時代の「ふつうの家」では、女の子の一人っ子はかなり珍しい。最初の子どもが女の子だったとき、お母さんは、周囲の人たちから「がっかりしないでね、またがんばればいいんだから」と言う、わけのわからない善意のなぐさめをされる時代でした。令和の今だとびっくりする方もいると思いますが、つい最近までそうだったんです。

 キキが一人っ子だったのは、いろんな理由が考えられました。コキリさんが身体が弱くて二人目は体力的にきつかったかもしれない、また、「魔女は女が継ぐもの」だから、一人目で跡継ぎが生まれてしまったから、それでいいと思ったのかもしれない……

 でも、いずれにせよ、それらを受け入れたオキノさんの愛の深さがしみじみと感じられます。

 原作の「魔女の宅急便」の世界では、詳しくは書かないけれど、そうした細かなことが読む人が読むとわかるように書かれており、そして、そういうところがじつにあたたかいのです。

 コキリさんはやさしいお母さんであると同時に、「働く女性」としてのキキの大先輩であり、お手本です。そして、この本のラストで、キキはその愛情と魔力で、運命を変えるほどのことをします。それがキキの「魔女の計算」だったのです。

 飛ぶことしかできなかったキキが一人暮らしをし、お母さんから「くしゃみの薬」の作り方を教わり、いつしかそれを自分流にアレンジすることを覚え、この巻ではお母さんのコキリさんを助けるまでになります。

「ねえ、おかあさん。わたし、みんな自分の力でやってるつもりだったけど……わかった。これが魔女の計算ってことね」(引用p282)

 魔女は自分ひとりの力で魔法を使っているわけじゃない、森羅万象に支えられてるのだと気づくキキとコキリさんなのでした。

 原作の「魔女の宅急便」は、女性の成長と自己実現について、丁寧に描かれています。小さな女の子が読めば楽しいし、大人が読んでも共感することが多く、素直にキキの成長を応援したくなります。

 けっしてスパルタに成長をうながす感じではなく、そっと寄り添って応援してくれるストーリーです。
 小さな女の子から、大人の女性まで、全年齢におすすめする良質のファンタジーです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。繊細で、やさしいファンタジーです。HSPやHSCの方に、とくにおすすめです。小さな女の子から働く女性まで。やさしいファンタジーが好きなら男の子や男性にもおすすめです。

 読後は大き目のマグカップで、ハーブティーが飲みたくなるかも。フレッシュなハーブティをどうぞ。

 

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