【ランサム・サーガ】漂着した先は、不思議な海賊の島。少年少女の冒険物語。シリーズ10作目【女海賊の島】

2024年4月2日

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女海賊の島 上下  ランサム・サーガ 10   アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

ヤマネコ号で冒険の航海をしていたキャプテン・フリントとウォーカーきょうだい、ブラケット姉妹は、ヤマネコ号を事故で失い、不思議な島へ漂着します。それは、海賊たちの島。海賊の首領ミス・リーの捕虜となった彼らは、不思議な生活を送ることになります……

この本のイメージ 海洋冒険☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 危険がいっぱい☆☆☆☆☆

女海賊の島 上下  ランサム・サーガ 10   アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

<アーサー・ランサム>
1884~1967。イギリスの作家。リーズ大学中退後、「オスカー・ワイルド」など文芸評論を書く。1913年にロシアに赴き、昔話を集めて「ピーターおじいさんの昔話」を刊行。ロシア革命時には新聞特派員として活躍した。「ツバメ号とアマゾン号」(1930)にはじまるランサム・サーガ12巻で児童文学作家の地位を確立

<神宮輝夫>
青山学院大学名誉教授(児童文学)。1932年、群馬県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。イギリス児童文学の訳書多数。第12回国際グリム賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 アーサー・ランサムの冒険小説シリーズ第10作目。原題はMISSEE LEE.原書初版は1941年。日本語版の初版は岩波書店「アーサー・ランサム全集」10巻として1968年。岩波少年文庫「ランサム・サーガ」第10作として2014年初版です。

 ランサム・サーガは、イギリスの作家アーサー・ランサムが書いた12作のシリーズで、かつては「アーサー・ランサム全集」として刊行されていました。ウォーカー四きょうだい、ブラケット姉妹、D姉弟が主な登場人物で、それぞれのお話で主人公が交替しながら、大きな流れをつくっています。

 どの巻から読んでも楽しめるのですが、子どもたちの成長物語でもあるので、第1巻「ツバメ号とアマゾン号」から順番に読むことをおすすめします。

 「ツバメ号とアマゾン号」のレビューはこちら

 今回のお話「女海賊の島」は、「ヤマネコ号の冒険」と同じシリーズで、おそらくはティティの書いた小説という設定だと思われます。
 設定としては、「ヤマネコ号の冒険」のあとのお話なので、最低でも「ツバメ号とアマゾン号」「ヤマネコ号の冒険」をお読みになってからお読みください。

 ストーリーは……

 「ヤマネコ号」で世界一周の途中のフリント船長、ジョン、スーザン、ティティ、ロジャのウォーカーきょうだい、ナンシィとペギィのブラケット姉妹は、思わぬ火災事故でヤマネコ号を失い、中国海域の謎の島にたどりつきます。

 そこで、泣く子も黙る「伝説の女海賊ミスィー・リー」の捕虜となってしまう一行でしたが、彼女の正体はケンブリッジ大学で学んで学者を目指していた勉強熱心な女性でした。

 イギリス人の子どもたちが漂着したことを知り、彼女はかつての夢だったラテン語の教師として子どもたちに授業をしようと考えます。子どもたち(とひとりの大人)とミス・リーの奇妙な生活が始まりました……

 ……と、いうのがあらすじ。

 今回の舞台は、中国周辺の不思議な島、竜島、虎島、亀島。この海域を縄張りとし、略奪系の海賊から商船を保護し、みかじめ料をとる海賊たちの首領が「ミスィー・リー」。ウォーカーきょうだいたちが「ミス・リー」と呼ぶ、不思議な女性です。

 思わぬ事故で「ヤマネコ号」を失ってしまった一行は、ばらばらに遭難し、フリント船長、ナンシィ、ペギィは海賊たちの捕虜として、ジョンたちは竜島に遭難して上陸することになりました。

 そこで、彼らはミス・リーと知り合うのですが、彼女は生え抜きの海賊でありながら、なんとイギリスのケンブリッジ大学に留学経験のある優秀な女性。
 ミス・リーはケンブリッジでラテン語を学び、学者になりたかったのですが、父の死によって故郷に呼びもどされてあとを継いだのです。

 彼女は捕虜となった一行を「自分の生徒たち」として屋敷にとどめ、命の保証をするかわりに「ラテン語の教師」という夢をささやかに叶えようとします。

 とんだところでラテン語の猛勉強をするはめになった子どもたちとフリント船長。

 ふだんはみそっかすのロジャが学校で習ったばかりなので記憶が新しく、いちばんの優等生。頼りになる大人のはずのフリント船長は失敗ばかりで、ラテン語の授業も劣等生。ジョンもナンシィも劣等生と、いつもとあべこべでなんだかクスっとしてしまいます。

 ティティとオウムのポリーは大活躍。
 鳥好きの海賊チャン首領と心を通わせ、みんなの待遇をよくさせたりと頑張ります。それに引き換え、ロジャのペット、サルのジバーは何度も一行を死の危険にさらします。ロジャもみんなも優しいですね、わたしだったら、このサル、きっと島へ置いていくわ……

 と、いつもとは勝手が違う状況で、四苦八苦する彼らと、海賊たちの奇妙な習慣や日常が描かれています。

 わたしたちは日本人なので、物語で語られる中国風の食事や箸などは、「ああ、ああいう感じね」と想像が付くのですが、イギリスの少年少女にとっては、読んでいてさぞかし風変わりで面白かったことでしょう。
蒸し鶏の乗ったお米のお粥や、甘辛いたれのお団子など、登場する食事はどれもこれも美味しそうです。

 ミス・リーのお屋敷にはイギリス風の紅茶の茶葉もあり、イギリス風の朝食でもてなしてくれます。ふつうのニワトリはいないようで、それでもチャボの卵で小さめの目玉焼きを作ってくれたりもします。ミス・リーがケンブリッジにとても帰りたがっているのがわかるシーンです。

 西洋の人たちから見た、中国風の雰囲気を楽しむ異国情緒あふれる冒険小説ですが、一見冷酷に見えるミス・リーと子どもたちの交流、だんだんと親しくなってゆく彼ら、そしてラストの大冒険など、何度読んでも心躍る展開です。
 クライマックスのシーンは、ミス・リーが強く、そして美しい。

 作者のランサムは1926 年と 1927 年に中国を訪れ、中国の生活と文化について詳細な取材をしました。
 神宮輝夫先生の解説によれば、彼は「中国革命の父」と呼ばれる孫文の妻である宋慶齢に会ったようです。後年、ミス・リーを描くにあたって彼女をヒントにしたと自伝で述べているそうです。

 今回の金言は

 「一度、お父さんが言ったことがあるんだ。何もできないときは、笑って耐えろ。しかし、可能性が一つでもあるなら、両手でそれをつかめって」(下巻p260)

 「彼女は奇妙な仕事をしている。しかし、やり方を心得ている。仕事をもっていて、そのやり方を心得ているということは、この世でいちばんいいことの一つだ」(下巻p296)

 文章は読みやすく、難しい漢字にはふりがながふってあります。小学校高学年から。
 少年少女の冒険小説がお好きならおすすめ。
 年末年始のお休みに、エキゾチックな冒険物語をぜひどうぞ!

 ※この本は電子書籍もあります。

 ※この本は現在、Amazonでは新品の「紙の本」は入手困難です。中古(古書)でお求めになるか、図書館、または書店にある場合があるので、お近くの書店の書店員さんにお尋ねください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 海賊の捕虜となるお話なのに、児童小説として気をつけて書かれているので暴力シーンや流血シーンはありません。

 「イギリス人の目から見た1930年代の中国」と言う、奇妙な物語です。
 ハラハラドキドキの冒険物語だけでなく、エキゾチックな異国情緒と、異文化の交流を楽しむことができます。

 

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