【ランサム・サーガ】宝探しの大冒険!少年少女の海洋冒険物語【ヤマネコ号の冒険】【小学校高学年以上】
ツバメ号とアマゾン号のメンバー、ジョン、スーザン、ティティ、ロジャ、ナンシィ、ペギィ、そして、フリント船長ことジムおじさんは、老水夫ピーター・ダックとともにヤマネコ号で外海での航海に出ました。目指すは「カニ島」。ピーター・ダックの記憶にある、宝島です。はてさて、宝は見つかるのでしょうか。
この本のイメージ 海洋冒険☆☆☆☆☆ 宝探し☆☆☆☆☆ 危険がいっぱい☆☆☆☆☆
ヤマネコ号の冒険 上下 ランサム・サーガ 3 アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫
ランサム・サーガ三作目は、「ヤマネコ号の冒険」。原題はPeter Duckです。
「ピーター・ダック」は、ティティの空想上の人物であるところから、これは、どうもウォーカーきょうだい、ブラケット姉妹たちのほんとうの物語ではないようです。
これは、ティティの物語
どうやら、設定としては、「冬の休暇中、快走船遊びができないウォーカーきょうだいとブラケット姉妹がコテージで休暇をすごすなか、ティティが暖炉の前でみんなに語って聞かせたお話」と言う設定のようです。おお、劇中劇だ。
しかし、ティティ、才能あります。「ヤマネコ号の冒険」は、「ロビンソン・クルーソー」と「宝島」にあこがれているティティが作ったという設定だけあって、危機に継ぐ危機、冒険に継ぐ冒険、クライマックスのどんでん返しなど、わくわくどきどきの海洋冒険小説です。
夏休みのきらめきいっぱいの「ツバメ号とアマゾン号」「ツバメの谷」とはまったく違う魅力の「ヤマネコ号の冒険」の最大の魅力は、「宝島」と同じく「大人が計画した『ほんものの宝探し』に、子どもが参加して大活躍する」と言うもの。
老水夫ピーター・ダックが子どもの頃、難破して打ち上げられた、無人島「カニ島」に埋められた(らしい)謎の宝を求めてみんなで宝探しの旅に出ます。
ところが、その宝の噂を聞いて、ならず者ブラック・ジェイクが「マムシ号」で追いかけてくるのです。
このブラック・ジェイクをどう振り払い、宝を手に入れるのか、が物語の核になります。
船長三人と航海士二人
ブラック・ジェイクの「マムシ号」で、船員としてこき使われていた少年ビルは、ヤマネコ号にもぐりこみ、船員の数などスパイをしてくるように指示されます。ビルのもってきた答えは「船長三人と航海士二人。AB船員三人」。
船長は、フリント船長以外はジョンとナンシィ、航海士ふたりはスーザンとペギィ、AB船員はピーター・ダックとティティとロジャという内訳なんですが、ブラック・ジェイクは「そんなに高級船員がたくさん乗っているなら、特別な航海に出るに違いない。きっとカニ島に行くのだろう」と目をつけます。(おそろしい誤解)
その時点ではただのバカンスで外海に出るつもりだった「ヤマネコ号」は、誤解でならず者に目をつけられてしまうわけです。たいへんなとばっちりですが、「どうせ目をつけられてしまったなら、ほんとうに宝を探しに行って見つけてしまおう」、と言うのがフリント船長の考えでした。
えええ?斜め上のポジティブシンキング。これが海の男ってことでしょうか。確かに、ルフィとかならそう言いそう。
そして、この少年ビルは、その後、ブラック・ジェイクに海の上に置き去りにされたところをジョンたちに救助され、正式にヤマネコ号のクルーになります。
無人島での生活
無人島でのキャンプは、ウォーカーきょうだいとブラケット姉妹にはお手のもの。
ヤマネコ号をピーター・ダックたちにまかせて、キャンプしながら宝の発掘を開始します。
こういう事をいちばん反対しそうな常識的なスーザンが、全面的に宝探しに賛成してくれ、全力でサポートしてくれるのが心強い。スーザンには何があろうともどんなときでも、クルー全員に三度の食事とお茶を用意する、と言う強い信念があります。
どんなに食べ物が少ないときでも、少なくとも年下のティティとロジャだけにはたとえチョコレート1個、ビスケット1枚だとしても「食事」をさせるのです。
水と食料の管理もスーザンに任せておけばばっちり。どんなにピンチのときでも、「ロジャ、チョコレートを食べなさい」と、お茶と食事のことを優先するスーザン。子どもの頃に「こんな人になれたらなあ」と思った、あこがれのお姉さんでした。(なれてないんですけどね)
宝のゆくえ
掘っても掘っても何も出てこない日々が続きますが、意外なことにスーザンが「宝が出てきても出てこなくてもあと何日はキャンプできる」と水と食料の残存を完全に把握していたことで、全員の士気は落ちませんでした。(先の見えない作戦下では最も大切なことですよね…)
そんなわけで、掘り続けた彼らですが、思いも寄らない危険が近づいてきます。それは天候の変化でした。
そのうえ、ブラック・ジェイクも追いついてきて……
さて、この後どうなるかは、読んでみてのお楽しみです。
社会に出れば、年下とか年上とか関係なく世間の荒波にもまれるわけですが、子どもの頃は「子どものエリア」から出る事はできず、大人の世界と子どもの世界は厚い壁で阻まれています。
だから、古くからの児童小説で男の子に愛されるのは、「子どもが大人の世界に混じって、本格的な冒険に参加する」ストーリーでした。トム・ソーヤーなんて、大人を振り回してしまうこともあります。
当然、大人の世界に無防備に踏み込んだトムは死にそうな目に遭うわけですけど、そういうのも含めてちゃんと書いてあるのも魅力といえます。
子どもの頃の不変の憧れがいっぱい詰まった冒険小説です。
まずは、「ツバメ号とアマゾン号」から順番に読んでいただきたいのですが、「ヤマネコ号の冒険」はこれだけでも独立したお話なので、これだけ読んでもだいじょうぶ。
おでかけできない秋の休日に、ゆったりお楽しみください。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
心躍る海洋冒険小説です。気をつけて書かれているので、ならず者の海賊が登場するわりには、暴力シーンは少な目です。一箇所だけ、ちょっと痛そうなところがあります。「そういうシーンがあるのだな」と事前に身構えていれば大丈夫な方なら、おすすめです。
スーザンのお料理がどれもおいしそうなので、読後はキャンプ用食器で、おうちでキャンプランチやキャンプディナーをしてみてはいかがでしょう。もちろん、デザートはチョコレートで。
イギリスの小説なので、いついかなるときでもお茶を飲みます。
温かい紅茶をお供にぜひどうぞ。
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