【子どもの本で平和をつくる】子どもたちに本を。未来への希望のために活動を続けた女性の物語。【イェラ・レップマンの目ざしたこと】【絵本】【5歳 6歳 7歳 8歳】
アンネリーゼは弟の手を引いて、がれきになった街を歩いていました。大好きだった図書館はもうありません。けれど、ある大きな建物で、たくさんの子どもの本が飾られている展示会が行われていたのです……
この本のイメージ 平和とは☆☆☆☆☆ 本の力☆☆☆☆☆ 子どもの未来☆☆☆☆☆
子どもの本で平和をつくる イェラ・レップマンの目ざしたこと キャシー・スティンソン/文 マリー・ラフランス/絵 さくまゆみこ/訳 小学館
<キャシー・スティンソン>
カナダのトロント生まれ。学校で教え、2人の子どもを育てながら作品を書く。イェラ・レップマンが創設したIBBYのカナダ支部の長年のメンバー。
<マリー・ラフランス>
グラフィックアートとエッチングを学び、サンフランシスコとニューヨークで版画家として働いた後、イラストレーションの仕事をはじめる。
<さくまゆみこ>
東京生まれ。出版社勤務を経て、翻訳家・編集となる。JBBY会長、「アフリカ子どもの本プロジェクト」代表。青山学院女子短期大学教授。著書に「エンザロ村のかまど」(福音館書店)、「どうしてアフリカ? どうして図書館?」(あかね書房)など。翻訳で産経児童出版文化賞、日本絵本賞、ゲスナー賞などを受賞している。訳書に「ゆき」「シャーロットのおくりもの」(ともにあすなろ書房)、「くらやみのなかのゆめ」(小学館)、「ひとりひとりのやさしさ」「やくそく」(ともにBL出版)など多数。
子どもの頃、解決できない悩みにぶつかったとき、大人になったらきっと自分はもっと賢くなっていて、悩みなんてすぐ解決できて、力強く生きてゆけるようになっているだろう、と思ったものです。
だって、子どもの目から見たら、大人たちは、いつも力強く、自信に満ちていて、なんでも楽々とこなしているように見えたからです。
でも、大人になると、そうではないってことが骨身にしみてわかります。
わたしは、常々、「ハードボイルドは若者の特権」と主張していますが、「大人」が渋くてかっこいい、って思えるのは、若いからなんですよ。自分が歳をとると、大人は渋くもかっこよくもないと言う残酷な現実を知ることになります。自分も含めて。
人は、どんなに歳をとっても未熟なのです。間違い続けて失敗し続けて、それでも立ち上がり、生きてゆくのが人生なのです。
歳をとった人が、子どもに未来を託すのは、そういうわけなのです。
この絵本は、実在したユダヤ人女性イェラ・レップマンの活動を、幼い少女の視点で描いたものです。原題は The Lady with the Books. カナダでの初版は2020年。日本での初版は2021年です。
イェラ・レップマンはドイツ将校の妻としてドイツで暮らしていましたが、第一次世界大戦での夫の死後、編集者として働き始めました。
しかし、その後、ナチスドイツの台頭により、二人の子どもと共にイギリスに移住します。
第二次世界大戦後はドイツにもどり、ドイツ再建に力を尽くしました。
この絵本に描かれている「絵本の展示会」が、それです。イェラは、(この絵本によると)20ヵ国の国々から、絵本を提供してもらえたということです。
戦争で図書館を失った子どもたちは、イェラの展示会でドイツの絵本だけでなく、たくさんの国々の絵本に触れることが出来ました。また、そのなかには、戦時中はナチスから禁止されていた絵本もあり、自由に読むことができたようです。
この絵本の主人公アンネリーゼの弟が好きな本として「はなのすきなうし」が登場します。これは「戦いを嫌う本」として戦時中、ナチスから禁止されていた絵本でした。
1952年にイェラは児童書を通じた国際理解に関する会議を開始し、 1953年にチューリッヒで非営利の国際児童図書評議会(IBBY)を設立しました。設立メンバーには「長くつ下のピッピ」のアストリッド・リンドグレーンも参加しています。
また、エーリヒ・ケストナーの「動物会議」にアイディアとインスピレーションを与えたともいわれています。
このように活動を続けた彼女は、1949年、ミュンヘンの国際児童図書館の設立に携わりました。この図書館は1983年にミュンヘンのブルーテンブルグ城に移転し、今も「本の城」として愛されているようです。(国際児童図書館の訪問レポを書いているブロガーさんがいらっしゃいましたのでリンクしておきます。)
難しい時代になっても、自分に出来ることを探し、行動を続けたイェラ・レップマン。
たいへんなバイタリティです。
大人って、なんでもできるわけでも、なんでもわかるわけでもないけれど、でも、やらないよりは、やったほうがいい。自分にできることを。
子どもだけでなく、大人も学ぶことが多い絵本です。
今の時代、世の中で起きていることを子どもにわかりやすく説明することは難しいので、このような絵本の必要性は高まっていると思います。すこしでも、世の中が明るいほうに向かいますように。
「戦争はねえ、始めるときは簡単なんだけど、終わらせるのがとても難しいのよ」と言う祖母の言葉が思い出されます。そして、その難しいことに、世界中の大人たちが取り組んでいます。
子どもたちに少しでも、明るい未来を残せるように。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
子どもたちに世界中の絵本をあたえることで、ドイツの再建に力を尽くしたイェラ・レップマンの活動をもとに、本の大好きなドイツの女の子の戦後の生活を描いています。希望に満ちたお話です。HSPやHSCのほうが多くのメッセージを受け取れると思います。
週末は、親子で読んで、いろいろと話し合うのもいいかもしれません。
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