【ナンシー・ドルーミステリ】薄倖の美少女を陰謀から救え!少女探偵ナンシーの事件簿【バンガローの事件】【電子書籍】【小学校高学年以上】

幽霊屋敷の謎を解決したナンシーは、親友へレンとバカンスを楽しんでいました。ところが、悪天候でモーターボートが転覆、あわや遭難というところに、心優しい少女が救助してくれたのです。彼女の名はローラ。実は、彼女は巨大な陰謀に巻き込まれようとしていたのです……
この本のイメージ 美少女☆☆☆☆ 陰謀☆☆☆☆☆ 危機に次ぐ危機☆☆☆☆☆
バンガローの事件 ナンシー・ドルーミステリ 3 キャロリン・キーン/作 渡辺庸子/訳 創元推理文庫
チーム「キャロリン・キーン」が送る、美少女探偵ナンシーの事件簿第三弾です。
モーターボートでバカンスを楽しんでいたナンシーとヘレンは、悪天候に見舞われ、あわや遭難の危機に瀕してしまいます。そこを偶然、ボートで通りかかり、助けてくれたのは天涯孤独の美少女、ローラ。
彼女は、両親を失い、後見人と会うべく、指定されたこのリゾート地に来たのでした。
この後見人夫妻というのが、あまりよろしくない方々のようで……心配になったナンシーは、例によって彼女の事情に首をつっこむことにします。
ところが、このローラの事情が、ナンシーの父カーソン・ドルーの追っている大掛かりな銀行横領事件と関わりがありそうなのです。巨大な陰謀に飲み込まれつつあるローラを、ナンシーは助け出すことが出来るのでしょうか。
と、言うのが今回のあらすじ。
のっけからモーターボートの事故で死に掛けるところからはじまるので、かなりびびりました。
後半になるとわかってくるのですが、このトラブルから命を救ってくれたローラの恩に報いるために、ナンシーががんばる、という、彼女の義理堅さを描くためのエピソードだったんですね。
ナンシーと親友のへレンがリゾート地で知り合った、天涯孤独の少女ローラを守り抜く今回のお話。父カーソンが追っていた事件と最後に合流するのも前回の「幽霊屋敷の謎」と同じです。今後もこのパターンで行くのでしょうか。
1930年に始まった「少女探偵ナンシー・ドルー」シリーズは、現在もなお新作が書かれている超ロングセラーであり、本国ではすでに200作以上も刊行されているようです。とくに、1979年までに書かれた56冊は「オリジナル・クラシック」と呼ばれ、特別に愛されています。
作品の中でナンシーは、ずっとずっと18歳のままらしいので、これは、サザエさんの星の人ですね。
ナンシーの親友へレンや、頼れる家政婦のハンナも引き続きの登場。
ところが、ボーイフレンドの名前が違うのです。たしか、「幽霊屋敷の謎」では、ダーク・ジャクソンって書いてあったと思うのですが、今回のボーイフレンドはドン・キャメロン。
でも、前回、名前だけ出てきたダーク・ジャクソンは、ナンシーが犯罪調査をすることを快く思っていないという話だったので、きっと別れてしまったのでしょう。ドン・キャメロンはいい人みたいです。(ナンシー・ドルーシリーズは複数の作家が書いているシリーズなので、もしかしたらナンシーのボーイフレンドの設定は作家間で共有されていないのかもしれません。ヘレンやハンナの描写は統一されていて違和感ないのに。たぶん、ストーリー的に大切な部分とされてないんでしょうね)
ナンシーは、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、そして正義感が強くて快活な、魅力的なお嬢さんです。欠点は、犯罪調査に夢中になると、デートのことを忘れてしまうくらい。
そのナンシーが、今回も、バカンス中に命を救ってくれたローラのために、命がけで大活躍します。
スマートフォンどころか携帯電話すらなく、電話をかけるのも一苦労、電報や手紙に頼っていた時代なのに、疾走感あふれるストーリーです。読んでいて、「ああっ、携帯電話さえあれば!」と思う箇所ではもどかしく、余計にハラハラします。
通信手段のほとんどない状態で、みずからどんどん危険に突っ込んでいくナンシーの度胸にはさすがとしか言いようがありません。
ナンシー・ドルーミステリは、理論を積み上げていく推理物ではなく、ナンシーが持ち前の「直感」で事件を解決していく事件簿ものです。ですから、ナンシーは安楽椅子でじっとしているなんてことはなく、どんな危険にもみずから体当たりで飛び込んで行ってしまうのです。
三作目にして、これはわざとかなあ、と思えて来るんですが、敏腕弁護士カーソン・ドルーは物分りのいい素敵なお父さんではあるんですが、困ったときにナンシーを助けてはくれないんですね。「幽霊屋敷の謎」では、なんと誘拐されちゃう。
そして、今回もまた、大事なときに殴られて気絶してしまうのです。
絶体絶命になっても、誰の助けもなく、自力で解決してしまうナンシー。
幼いときにこれを読んだ少女は人生観変わると思います。ヒラリー・クリントン、ローラ・ブッシュ、ソニア・ソトマイヨールなど、アメリカで活躍している女性たちは、子供の頃ナンシー・ドルーの愛読者だったという話なので、どれだけの影響があったのでしょう。
1930年です。何度確認しても、「まいった」という気持ちしか出てきません。
日本では、1932年に白木屋大火事件が起きています。八階建てのデパートで火災が起き、多数の女性が着物のすそがはだけるのを恥じて二階から飛び降りることが出来ず焼死したり、裾を手で押さえようとして命綱から転落したりした事件です。
女性は、つつしみ深く生きるかそうでなければ死ぬか、くらいの時代でした。
その時代に、アメリカではナンシーがダークブルーのコンパーチブル(幌つきオープンカー)を乗り回し、モータボートを自分で操縦し、大立ち回りをする……。
ああ、これは負ける。どう考えても、これは負ける。
しかもナンシーは、ことさら勝気で毒舌だったり、男性に対抗心を持って戦ったりするタイプではなく、すべてが自然なのです。
美しく優しく、いつもハツラツとして生命力にあふれ、ごはんもおいしそうにもりもり食べる。妙な自己卑下も遠慮もしないけれど、だからといって、むやみに他人と対抗したり、攻撃したりもしない。
ただただ、健全な、どこまでもまっすぐな女の子なんです。
つまり、ストラテマイヤー工房は、この時代(!)に「男性に守られついて行く」タイプでも「男性に対抗して張り合う」タイプでもなく、男性との対立軸から完全に離れた、「行動力も解決能力もある明るく健全な女の子」像を提案したことになります。
今回の事件も、ナンシーがさわやかに解決しています。どんなふうに解決したかは、読んでみてのお楽しみ。ハラハラドキドキはしますが、残酷シーンや殺人シーンはなし、子どものための良質なサスペンスアクションです。
スカッとしたいけど、残酷なシーンは見たくない、人の死なないミステリが読みたい時にはおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ハラハラドキドキ、危機一髪のシーンは多いのですが、残酷シーンや殺人シーンなどはありません。言うなれば水戸黄門のような世界です。安心して楽しめるミステリシリーズです。
食べ物のシーンはいつもおいしそうで、濃く入れた紅茶やサンドイッチがほしくなります。
週末の午後やお風呂上りに、楽しんでみてくださいね。お風呂で半身浴しながら読むのもおすすめです!
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