【風柳荘のアン】赤毛のアンシリーズ四冊目。校長先生になったアンの書簡集。【赤毛のアンシリーズ】【中学生以上】

2024年2月20日

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風柳荘のアン L.M.モンゴメリ/作 松本侑子/新訳 文春文庫

アンは22歳になり、プリンス・エドワード島の港町、サマーサイドで校長先生の仕事をすることになりました。ふたりの未亡人が暮らす「風柳荘」(ウィンディウィローズ)に下宿することになったアン。これは、そんなアンの三年間の生活を、ギルバートへの手紙でつづった物語です。

この本のイメージ 短編集と長編のハイブリッド☆☆☆☆☆ けっこうバリキャリ☆☆☆☆☆ 日常がファンタジー☆☆☆☆☆

風柳荘のアン ルーシー・モード・モンゴメリ/作 松本侑子/新訳 文春文庫

 赤毛のアンシリーズの四作目。昔ながらの村岡花子版では「アンの幸福」として出版されています。今回、未訳だった部分も含めての完訳版が文春文庫から出版されたという事で、松本侑子先生の訳で読みました。

 かなり凝った構成になっており、アンがサマーサイド高校で校長先生をしていた期間の物語を主軸に、雑誌などに発表された複数の短編を、アンのギルバートへの手紙の中で語られたという形式にしてひとつの長編に再構成した作品のようです。

 物語の年代としてはアン22歳で、ギルバートと結婚する前の婚約中のお話となっていますが、モンゴメリが晩年に書いたこともあって、純真突撃型のアン・シャーリーは、この作品の中では腹芸もできる老獪な一面も見せるようになっています。

 そんなアンの大人びた部分は、最初からシリーズを読んでいる読者の目にはあまりネガティブに映らず、「あの小さかったアンがこんなに大人になってねえ……」と言う、なんだか祖母のような気持ちになってしまうのが不思議です。
 でも、これが時代を越えた人気の秘密ではないでしょうか。アンシリーズを読むと、誰しもプリンス・エドワードに孫を持った気持ちになると言う。

 これは、アンが22歳~25歳までのあいだの物語です。

 アンは、プリンス・エドワード島の港町サマーサイドの高校で校長先生の仕事をすることになりました。住むところがなかなか決まらなかったアンですが、ふたりの未亡人が暮らす「風柳荘」(ウィンディウィローズ)に下宿することに。

 文学大好き、想像力たっぷりのアンは、持ち前の明るさで見知らぬ土地の校長としてがんばろうとしますが、よそ者だったり若すぎたり女性だりったすることで、最初は苦戦を強いられます。

 特に最初の一年目は、プリングル一族と言う土地の名家と対立してしまい、たいへんな窮地に立たされてしまいます。
 よそ者が筋の通らない理屈で孤立してゆく過程はなかなかリアルで、また、正義感で突破しようにも相手は強敵で、アンは追い込まれてゆきます。

 幼いころから苦労をしてきたアンはメンタルだけは強いので、くじけたりはしませんが、この圧倒的不利な状況はもうひっくりかえせないのではないか、と思われたとき、驚くような大逆転が起きます。
 これはぜひ、お読みいただきたいのですが、アンが偶然「純粋な好意」で行ったことが、奇跡的にすべてをひっくり返したのでした。唖然とする展開ではありますが、人生とはえてしてこういうものかもしれません。

 二年目は、職場でどうしてもそりの合わなかった副校長キャサリンを、アンがグリーン・ゲイブルズに招待し、ふたりが打ち解ける物語。これは、読者が「待ってました」と思う、いつもの人懐っこい「アンの魔法」が描かれています。

 三年目は一年目から登場している、お隣の常盤木荘(エヴァーグリーンズ)の少女エリザベスとアンの物語です。お話のベースに、ジョージ・マクドナルドの幻想小説「北風のうしろの国」があり、「明日」に行きたがるエリザベスが、「北風のうしろの国」に行きたがるダイヤモンド少年を思わせます。

 この薄倖の少女エリザベスが、儚げで愛らしい、読者誰もが「幸せになってほしい」と願うタイプの女の子なのです!
 しかも、「もしかして、これは『北風のうしろの国』なのでは」と思うと、あの物語のラストを思い出して最後までハラハラしました。
 (ネタバレしますが、エリザベスのエピソードはハッピーエンドです。大丈夫です。←どさくさにまぎれて「北風のうしろの国」のネタバレを……(汗))

 個人的に好きなのは、一年目のテイラーさんの食事会。さすがはアンだわ、と言うしっちゃかめっちゃかでハッピーな展開が安定の楽しさ。

 そして、最も心に残るのは、エリザベスが「明日」でいちごのジャムをのせたアイスクリームを食べる場面です。

 アンシリーズの愛読者で、このエリザベスが「明日」でアイスクリームを食べるシーンが大好きな人って、多いと思います。わたしにとって、いちごのアイスがアイスクリームの中でもなんとなく、特別な、不思議な食べ物に感じられるのは、この作品のせいだと思います。

 かなりのボリュームとエピソード量なので、読み終わった後は、長い旅行から帰ったような、長編映画を見終わったときのような気分になります。

 休日の午後に少しずつ読みすすめるのもおすすめ。
 また、注釈や解説が詳しく書かれているので、後半の解説部分を読みながら読み返すと、別の味わいがあります。

 巻頭にある、実際のプリンスエドワード島の写真集もうれしい。風柳荘を思わせる「アン女王復活様式」の塔のある洋館の写真もあります。写真を見ていると臨場感を感じられ、こんな家で暮らしてみたいなあと言う気持ちが沸きあがってきます。塔。洋館。庭。うーん、住みたい。

 「赤毛のアン」から読み始めないと、わからないことが多いのでぜひ最初から順番にチャレンジして、ここまでたどり着いていただきたいです。
 悩める女の子にも、働く女性にも、子や孫を持つ女性にも、すべての女性におすすめの少女小説です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はいっさいありません。アン・シャーリーが、どう見てもHSPのADHDなので、ふつうの方が読むよりアンのことが理解しやすいでしょう。はじめての重責ながら、持ち前の明るさとがんばりで逆境を跳ね返してゆくアンは、応援したくなります。
 また、途中ではさまれる短編エピソードには、くすりとさせられますし、けなげなエリザベスは、とにかくかわいらしく、幸せを祈りたくなる少女です。

 ラストはさわやかなハッピーエンド。
 読後のために、とっておきの紅茶と、いちごジャムとバニラアイスクリームをご用意くださいね。

 

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