【なんでも魔女商会】自分らしさを大切にする、おさいほうの魔法。ファッションファンタジー第10巻【三毛猫一座のミュージカル】【小学校低学年以上】
もうすぐ学校の発表会。主役のユカリちゃんが足を骨折したため、代役としてシンデレラ役をすることになってしまったナナ。ユカリちゃんのように上手くできるかな?ナナはとても自信がありません。そんなとき、リフォーム支店にステッキをもった燕尾服すがたの三毛猫があらわれて……
なんでも魔女商会 10 三毛猫一座のミュージカル あんびるやすこ/作 岩崎書店
<あんびるやすこ>
群馬県生まれ。東海大学文学部日本文学科卒業。テレビアニメーションの美術設定を担当。作品に「だっこちゃんどこ?」「まじょのまほうやさん」「こじまのもり」シリーズなど。
あんびるやすこ先生のファッションファンタジーシリーズ「なんでも魔女商会」第10巻は2008年初版です。
「なんでも魔女商会」は、お洋服のリフォームをするおさいほう魔女シルクと、人間の親友ナナ、めしつかいねこコットンの活躍を描いた人気シリーズ。
基本的に一話完結で、どの巻を読んでもお話は通じるのですが、シルクとナナの出会いが描かれている第1巻をまず最初に読むほうがわかりやすいでしょう。
第1巻のレビューはこちら↓
今回のお話は……
もうすぐ学校の発表会。
ナナはお芝居で主役のシンデレラをすることになりしたが元気がありません。
それもそのはず、ほんとうはお芝居の上手なユカリちゃんが主役をするはずだったのに、彼女が足を骨折してしまったため、急遽代役に抜擢されてしまったのです。
ユカリちゃんのように上手にできるかしら?
まったく自信がなくて、思い悩むナナ。
そんなとき、リフォーム支店にお客さまが。
ステッキをもって燕尾服を着た三毛猫、「三毛猫一座」の座長です。
「三毛猫一座」のミュージカルに招待されたシルクとナナとコットン。
けれど、お芝居はさんざんな出来。
どうやら主役のミーナはそれまで一座の花形だったカレンの代役で、慣れていなかったようです。
一座の様子をみて一肌脱ごうと決意したシルク、みんなの衣装のリフォームを申し出ます。
さて、シルクはどうやって「三毛猫一座」を救うのでしょうか……
……と、いうのがあらすじ。
今回のテーマは「自分らしさ」。
ナナも「三毛猫一座」のミーナも、それぞれ「代役」としてヒロインに抜擢されました。
見ているほうはどうしてももともとの主役のような演技を期待していますし、衣装ももとのヒロインにあわせて作られています。
ナナはユカリちゃんのように演技しなくちゃ、ミーナはカレンさんのようにやらなくちゃ、と気負うあまりに自分らしさを見失ってしまい、空回りしていました。
たとえ代役でも、まかされた以上は「誰かの真似」をするのではなく、自分なりの、自分らしい主役になって全力を尽くさなきゃ。今回はそういうお話です。
シルクはリフォームの魔法でそれぞれのヒロインをそっと後押し。
本来の主役のユカリちゃんやカレンさんがいじわるな子じゃないのも推しポイント。
こういうのは、相手がいい人のほうが遠慮して悩んでしまうものです。
ナナだって、ユカリちゃんがいい子で骨折で発表会に出られないのはつらいにちがいないとわかっているから「ユカリちゃんみたいに」と気負いすぎてしまうわけで、これが嫌な子だったらかえって「だったら、わたしだってやりたいようにやるわよ!」と思えるものです。
みんながいい人だけど、それだけにみんな悩んでしまう……こういう展開はあんびるワールドの真骨頂。トラブルって、どこかに悪者がいるから起きるわけでもなく悪者退治をしたら解決するわけでもない場合があります。
そんな「やさしさゆえの悩み」を解決してくれるのがシルクのリフォーム魔法なのです。
シルクはミーナとナナの衣装をそれぞれに似合う、彼女たちの魅力を引き出す衣装にリフォーム。
ファッションが変われば気持ちも変わるもの。
ほかの人のために作られた服を着て、他人の真似して無理をしていたミーナとナナ。
でも、自分のための自分だけのドレスを着た彼女たちは「誰かの『代わり』じゃなく自分らしくがんばることが大切なんだ」と気づきます。
他人がキラキラして見えるとき、「ああ、あんなふうにはなれないな」と落ち込んでしまうとき、自分のなかにもキラキラした何かがあるとは夢にも思いません。
でも、その子のように同じことができなくても、自分には自分なりの、自分ならではのよさがあるはず。
それがまだほんの芥子粒のような種でも、大事に大事に育てれば大きな花が咲くかもしれません。
シルクはほんの少し手を加えることで、「他人のために作られたもの」を「その人だけのもの」に変身させてしまいました。「自分らしさ」も、そんなふうに、大げさなことではなくて「ちょっとした工夫」なのかもしれません。
文章は平易で読みやすくすべての漢字にふりがながふってあります。小学校低学年から。
おしゃれやハンドメイドに興味があって、ファンタジーが好きなお子さまに。毎回テーマがはっきりとしているので、どの巻を読んでもわかりやすく、読書感想文も書きやすいシリーズです。
装うこと、作ること、物語を楽しむこと、そのどれかが好きなら「なんでも魔女商会」をぜひどうぞ!
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はまったくありません。自分らしさを見失って自信を失っているお子さまに。ファッションやハンドメイド、ファンタジーが好きなお子さまにおすすめです。
読後は、オレンジティーでティータイムを。
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