【サーティーナイン・クルーズ】39のてがかりを集め秘密の遺産を手に入れるミステリーアドベンチャー。10巻11巻で第1部完結【最後の試練】【小学校中学年以上】
イギリスに到着したエイミーとダンは、シェイクスピアの謎を解き、最後の手がかりを手に入れる。はたして、ふたりは先祖の悲願、一族の和解と結束をはたすことができるのか……謎の遺産をもとめて世界を旅する冒険小説第1部完結編。
この本のイメージ 前編 イギリス☆☆☆☆☆ 暗号解読☆☆☆☆☆ シェイクスピア☆☆☆☆☆
後編 結束☆☆☆☆☆ 最終決戦☆☆☆☆☆ 最後の敵☆☆☆☆☆
サーティーナイン・クルーズ 10 最後の試練 前編 後編 マーガレット・ピーターソン・ハディックス/著 小浜杳/訳 HACCAN/イラスト メディアファクトリー KADAKAWA
<マーガレット・ピーターソン・ハディックス>
1964年4月9日生まれ。2つの子供向けシリーズ、Shadow Children(1998?2006)とThe Missing (2008?2015)で最もよく知られているアメリカの作家。彼女はまた、複数の著者によるシリーズ「サーティーナイン・クルーズ」の第10巻を執筆しました。
<小浜杳>
1973年横浜市生まれ。東京大学英語英米文学科卒。書籍の翻訳以外に、映画字幕翻訳も手がける。訳書に「ゴール」「ゴール!2」(イーストプレス)「ジョージとの日々」(ダイヤモンド社)ほか。
この物語は、全体構成と第1巻を「パーシー・ジャクソンシリーズ」のリック・リオーダンが担当し、それぞれの巻は別々の作家が担当するという集団創作方式を採用しています。また、今回でシーズン1が終了し、その後シーズン2、3と続いています。アメリカのテレビドラマの形式を採用したようです。
アメリカの長期連続テレビドラマは「ショーランナー」と言う作家がいて、全体構成や世界観、キャラクターの基本設定を決め、その人が創った世界観やあらすじをもとにして、多数のシナリオライターが擦り合わせながら分業する方式をとっています。これによって、全体の世界観やテイストの統一をはかります。日本でも、長期シリーズのアニメーションや特撮番組はこの形式をとっているようです。
小説では、この「サーティーナイン・クルーズ」のほかにも、アメリカで90年以上愛されている少女探偵「ナンシー・ドルーミステリ」や、ドイツのSF「宇宙英雄ローダンシリーズ」、日本では「グイン・サーガ」シリーズが作者の死後この方式で継続中です。
ご紹介するのが遅くなってしまい、市場では入手困難になってしまいました。本当に申し訳ありません。せめてシーズン1のラストまではご紹介しなければと思って記事を書いています。面白い本なので、ぜひ中古や図書館でお楽しみください。
翻訳本なので、契約上の問題がいろいろとあるのでしょうが、面白いので重版か電子化してほしいですね。
お話が完全に続いているので、まずは、第1巻「骨の迷宮」からお読みください。第1巻のレビューはこちら↓
今回の10巻と11巻は、本国では一冊として出版されていたようです。
ストーリーは……
ケイヒル一族の始祖、ギデオンとオリヴィアには、4人の子ども━ルーク、キャサリン、トマス、ジェーン━のほかに、マデリンという娘がいた。そして、それぞれが、ルシアン、エカテリーナ、トマス、ジェイナス、マドリガルの始祖となったのだ。
イギリスに到着したエイミーとダンは、シェイクスピアを調査し、最後の手がかりを手に入れる。ふたりは、手がかりに導かれて秘密の島へたどりつく。
はたして、ふたりは遺産を手に入れられるのか。そして、始祖の悲願、一族の和解と結束は?
……と、いうのがあらすじ。
ケイヒル一族は、ルシアンが謀略、エカテリーナは発明、トマスは身体能力、ジェイナスが芸術と、それぞれ特殊能力に長け、その反面それぞれが反目し、いがみ合ってきました。
エイミーとダンは、仲のいいきょうだいでしたが、ケイヒル家の遺産獲得レースに参加してからというもの、陰謀、謀略、裏切りの連続、そして、いい人ほど死んでしまうと言う体験を繰り返し、人間不信に陥っていました。
しかし、そんなふたりに託された使命が「一族の和解と結束」……
重すぎる使命にエイミーは悩みます……。
サーティーナイン・クルーズの面白さは、ひとつひとつの手がかりが、歴史上の人物とつながっていて、「歴史ミステリー」の謎解き要素があること。歴史の謎を解きながら、「ケイヒルの遺産」探しのストーリーを追うという、二重構造になっています。
ただ、このケイヒル一族と言うのが、天才的な能力がありながらいがみ合い続ける残酷な一族で、エミリーたちは何度も傷つきます。エミリーの祖母グレース、両親のアーサーとホープ、そして、エミリーとダンは心の温かい人間。同じ一族なのに、どうしてこんなに違いがあるのか? それが、一族の秘密━ギデオンが偶然開発してしまった「あるもの」と関係があったのでした。
エイミーとダンのふたりは、ギデオンとオリヴィアの時代からの一族の悲願、「一族の和解と結束」に立ち向かいます。
高い能力があることは本当に幸せなのか? ありあまる富があるのは本当に幸せなのか?
ジェットコースターのようなアドベンチャー小説ですが、子どもにとって大切なことも問いかけてきます。陰謀や裏切りの連続でありながら、本質は正統派の冒険小説なのです。
悩み症のエイミーは内向的で引っ込み思案ですが、なにごとも熟慮して考えるタイプ。細かいところに気がつき、問題の解決策を考え出し、他人と交渉するのが得意。ダンは「瞬間記憶」と言う特技があり、どんなものも一瞬見れば覚えてしまいます。
ふたりには、得意分野だけでなく弱点もありますが、補い合って旅をしながら成長してきました。邪魔者を消しながら進み続けるイザベルに対し、敵とすら交渉し味方を増やしながら成長するエイミー。内気だったエイミーの成長が頼もしい。そして、能力はあるけれど軽率だったダンは思慮深くなりました。
サーティー・ナインクルーズは、冒険小説の面白さと、歴史ミステリーを追う知育要素があり、巻末には毎回「エイミーのリサーチノート」として、その時テーマになった歴史の謎や、いままでの手がかりに関係するクイズが掲載されています。アメリカで大人気の「マジック・ツリーハウス」も歴史ファンタジーですが、読みながら歴史に興味をもってもらおうという横展開が楽しいのです。
日本は、世界史をあまり熱心に教えませんが、社会に出ると必要な知識なので、小さい頃から物語の力で興味をもたせるのはいいかもしれません。大人が読んでも面白いです。
長いシリーズだけに、読み応えがあります。体調不良などで外に出られないとき、またはゴールデンウィークなどの長期のお休みなど、おうち時間におすすめのシリーズです。
※この本は現在、Amazonでは新品は入手困難です。中古(古書)でお求めになるか、図書館、または書店に置いてある場合があるので、お近くの書店の書店員さんにお尋ねください。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
人が怪我をして流血するシーンもあります。しかし、気をつけて書かれているので、残酷ではありません。「そういうシーンがあるのだな」と身構えていれば大丈夫な方なら、面白いのでおすすめです。
毎回、歴史ミステリーがテーマになっているので、題材となった人物について、読後に調べてみるのも楽しそうです。
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