【ドリトル先生】100年前の動物ファンタジー、最終巻。トミーがつづる、ドリトル先生の短編集【ドリトル先生の楽しい家】

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ドリトル先生の楽しい家 【ドリトル先生シリーズ 13 】 ヒュー・ロフティング/作 井伏鱒二/訳 岩波少年文庫

むかしむかし、イギリスの片田舎、沼のほとりのパドルビーに動物と会話できる不思議なお医者さんがおりました……。これは、作者のロフティングの死後、遺稿をもとにまとめられた短編集です。

この本のイメージ ほのぼの☆☆☆☆☆ 大冒険☆☆☆☆☆ 楽しい☆☆☆☆

ドリトル先生の楽しい家 【ドリトル先生シリーズ 13 】 ヒュー・ロフティング/作 井伏鱒二/訳 岩波少年文庫

<ヒュー・ロフティング>
1886~1947年。イギリス生まれ。土木技師を経て、1912年アメリカで結婚し、文筆活動に入る。著書にドリトル先生シリーズ。

ドリトル先生の楽しい家 【ドリトル先生シリーズ 13 】 ヒュー・ロフティング/作 井伏鱒二/訳 岩波少年文庫

 ドリトル先生シリーズついに最終巻。原題はDoctor Dolittle’s Puddleby Adventures. 原書初版は1952年。日本語版初版は1962年です。

 これは、作者ロフティングの死後、夫人のジョセフィン・ロフティングが遺稿をまとめたもので、トミー・スタビンズがつづった短編集というかたちになっています。

 お話は、

 ・船乗り犬
 ・ぶち
 ・犬の救急車
 ・気絶した男
 ・カンムリサケビドリ
 ・あおむねツバメ
 ・虫ものがたり
 ・迷子の男の子

 の八編が収録されています。

 ドリトル先生の物語は、おおまかには二種類あり、ドリトル先生が動物から聞いた身の上話と、ドリトル先生が動物語を駆使して困っている動物を助けるお話にわけられます。

 「船乗り犬」、「ぶち」、「虫ものがたり」、「カンムリサケビドリ」は前者のお話、「気絶した男」、「あおむねツバメ」は後者のお話、そして「迷子の男の子」は、男の子に引っ掻き回されるドリトルファミリーのどたばた話です。

 「気絶した男」は、探偵犬クリングが活躍するミステリ仕立てのお話です。
 「ドリトル先生航海記」で、世捨て人のルカを助けるために犬の証人を出す話がありますが、ロフティングは犬が活躍するミステリが好きだったようで、この話も盛り上がります。

 クルミの中の虫が、自力では動けないのに大冒険する虫ものがたりは、奇妙な魅力があります。この虫、旅のあいだに成虫にならなかったのかしら、と思うと不思議ではありますが。

 「迷子の男の子」は、迷子なのか捨て子なのかわからない、小さな男の子がドリトル先生のキャラバンに迷い込んでしまい、自分が飼育係になると言って動物たちの世話をしようとする、けれども、幼児なのでむちゃくちゃになり、動物たちも迷惑する……と言うお話。

 こんな幼児に比べたら、動物たちのほうがよっぽど礼儀正しくて利口でしょ、みたいな皮肉も感じさせます。

 ドリトル先生の物語は、何かしらの比喩だとわかってからは、もともと面白かったお話にぐんと深みを感じられるようになりました。

 ロフティングは、馬や犬が格別好きだったらしく、「動物の思い出話」系のお話は、馬や犬の話が多いのです。犬は、ジップが「雑種犬ホーム」を作っていたという設定だったので、さまざまな犬が身を寄せており、個性豊かな犬の話があります。

 わたしは、犬も猫もだいすきなのですが、ロフティングは猫はいまいちだったらしくて、ドリトル家には、分別のあるおとなしい「月の猫」以外、猫はいないのです。考えてみれば、猫のお話もありません。猫族の虎は、「秘密の湖」では悪役です。

 犬や馬は鎖や手綱でつながれていて、自由に持ち主を選べないところが、愛着もあり不憫だと思っていたのかもしれません。ドリトル先生の物語には、犬や馬が「自分で自分の飼い主を選ぶ」話が数多くあります。

 自力で動けない虫の大冒険や、かごの中のカナリアの激動の人生など、「ドリトル先生シリーズ」には、自分では動けないはずの生物が、とんでもない冒険をする話が多くあり、それが魅力でもあります。

 ドリトル先生の時代には、まだ黒人奴隷や召使などの制度がありました。自力で自分の主人や住む場所を選んだりすることができない人たちがたくさんいたのです。

 いまは、ドリトル先生の時代に比べたら段違いに自由な時代になりましたが、それでもブラック企業など、まだまだ大きな問題があります。不自由な身の上でも大活躍する動物、鳥、虫たちの姿には励まされます。

 100年前の作家が夢見たユートピアの物語です。
 おっとりしたドリトル先生、しっかりもののアヒルのダブダブ、とぼけたブタのガブガブ、ちょっぴりおっちょこちょいの犬ジップ、かしこいフクロウトートー、やさくして親切なオウムのポリネシアなど、個性豊かなドリトルファミリーの面々の楽しい暮らしを見ていると、「こういうのが家族って言うんだな」としみじみとあたたかい気持ちになります。

 文章は平易で、とても読みやすいので、小学校中学年から。

 井伏鱒二の翻訳は、今の感覚にすると古臭い表現もあるのですが、美しい文章です。
 「さよう」「なかんずく」「これはしたり」「いっさんに」など、最近は見られない言葉もありますが、とにかく語彙が豊富。
 それに文章の上品さが、のんびりしたイギリス紳士ドリトル先生と当時の時代背景によくあっています。
 古きよき動物ファンタジーを親子でお楽しみください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はまったくありません。安心してお読みいただけます。 

 100年前のイギリス生まれのアメリカ人が夢見た、多様性の社会の物語です。HSPHSCの方々のほうが多くのことを読み取れると思います。
 一見、ただのほのぼの動物ファンタジーですが、多くの比喩に満ちているので、子どもの頃に読んだきりという方も、ぜひ読み返してみてください。古くて新しい不思議な魅力があります。

 読後は、熱々のイギリス紅茶にミルクを入れて。ビスケットとともにティータイムをどうぞ。

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